モリブデンは植物の微量必須元素の一つであり、根粒による窒素固定や硝酸代謝に不可欠な元素である。本研究はマメ科を含む植物を材料にモリブデン輸送についての分子生物学的解析を行うことを通じて、その制御の一端や根粒形成における役割を明らかにすることを目的としている。 昨年度までに対象としている遺伝子の変異株の性質やモリブデン輸送の特性を調査するとともに、当該遺伝子を酵母で発現させるためのプラスミド構築や当該遺伝子産物の細胞内局在を明らかにするための抗体作成を進めていた。 本年度の研究実績としては、昨年度までの調査で選び出した植物のゲノムから見出したモリブデン輸送に関与する可能性が考えられる遺伝子について酵母を用いたモリブデン輸送活性の検定を行った。当該遺伝子を酵母で発現させ、酵母細胞でのモリブデン蓄積に及ぼす影響を調べた。当該遺伝子を発現させない酵母と比較して、発現させた場合にはモリブデン濃度が低下する傾向が見られた。このことは当該遺伝子がモリブデンを細胞内から細胞外へ輸送する活性を持つことを示唆している。 また当該遺伝子産物に対する抗体を作成し、昨年度にレポーターを用いて行った発現やタンパク質の局在解析結果をさらに補うために、理化学研究所と共同で免疫電顕を行った。その結果、当該タンパク質の少なくとも一部は根粒のバクテロイドを囲むペリバクテロイド膜に存在することを示唆する結果を得た。 これらの結果に、昨年度までに得ていた、変異株の表現型や当該遺伝子の発現パターンのデータなどを加えて、当該遺伝子産物がモリブデンをバクテロイドに供給するために重要な遺伝子であることを内容とする論文にまとめ投稿した。
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