研究実績の概要 |
本研究の主目的は、美術出版社旧蔵写真のネガフィルム・コレクションを調査、修復およびデジタル化し、そのデータベース化を通じて戦後日本美術史研究の基礎となる一次資料体を再形成することにある。修復不可能の保存状態にあったフィルムを除くと、その総数は最終的に123,191コマ(35ミリフィルムが99,819コマ、120フィルム(「ブローニー」)が10,354コマ、4×5フィルムが13018コマ)に及ぶ。その全点を日英バイリンガルで記載し、大学博物館の方法論と情報工学的ノウハウを活かして、データベース構築のための台帳を作成した。 この写真は、1956年から1987年まで美術出版社専属カメラマンとして活躍した酒井啓之(1932-2007年)の撮影によるもので、実際には誌面に載らなかった写真も多く含まれている。これまで日本美術史の「決定的瞬間」として選ばれ、出版物に掲載され、幅広く共有されてきた写真に対し、我々はこのアーカイブをこれまで戦後日本美術史を形成した図像(イコノグラフィー)を大きく変革するものとして位置付けた。その仮定のもと、芸術家のアトリエ訪問、パフォーマンスの記録、展示の会場風景などカテゴリーごとに写真を選定し、これまで共有されてきた図像との差異を分析した。 同時に、ニューヨーク近代美術館のアーカイブを中心に、国内外における美術写真アーカイブの構築方法について調査し、国際的なミュージアムの連携プロセスを検証し、「ワールド・アート・ヒストリー」における美術出版社写真アーカイブの位置付けについて議論を重ねた。 2023年3月24日に開催されたディスカッション『戦後日本美術の決定的瞬間 ― 美術出版社写真アーカイブの現在』では本研究の成果を発表するとともに、今後の方法論的課題そしてデータベースが持つ更なる技術的可能性について議論した。
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