研究課題/領域番号 |
20H00009
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研究機関 | 京都芸術大学 |
研究代表者 |
天野 文雄 京都芸術大学, 舞台芸術研究センター, 特別教授 (90201293)
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研究分担者 |
森山 直人 京都芸術大学, 大学院, 客員教授 (20343668)
田口 章子 京都芸術大学, 芸術学部, 教授 (80340529)
内野 儀 学習院女子大学, 国際文化交流学部, 教授 (40168711)
中島 那奈子 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 都市文化研究センター研究員 (00728074)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 舞台芸術 / 演劇 / 舞踊 / ドラマトゥルク / アジア / 劇場 / 日本文化 |
研究実績の概要 |
(A)理論的研究の作業として、①研究分担者の田口が中心となった「アニメと日本文化」研究会では、アジア圏で広く認知されている日本のアニメ文化と歌舞伎・浮世絵等との歴史的関係性についての多角的な検証を行った。②研究分担者の森山が中心となって「ドラマトゥルク」研究会を立ち上げ、研究協力者の長澤慶太(ドラマトゥルク)、あごうさとし(演出家)とともに、「ラボラトリー機能」における「劇場」と「ドラマトゥルク」の役割について基本的な論点整理を行った。
(B)実践的研究の作業として、以下の3つの研究事業が大きな成果を得た。 ①アジア圏アーティストとの協働作業経験を持つ村川拓也(演出家・映像作家)を研究協力者に迎え、「ラボラトリー機能」における劇場実験のテクニカルな可能性を探究する「演劇作品『事件』研究プロジェクト」を立ち上げ、そこでの研究成果を公開劇場実験として実施した(村川は本作で愛知県芸術劇場が主催する第21回AAF戯曲賞を受賞)。 ②最終年度の国際共同実験を見据え、研究分担者の中島が振付家・演出家メンファン・ワン(中国)と協働して「老いを巡るダンスドラマトゥルギー」国際研究プロジェクトを立ち上げた。「ダンスと老い」をめぐる「西欧近代」的な価値観とは異なる、中国や日本が持つ「別の視点」を、能や日本舞踊(京舞)等の複数の視点から検討するオンライン研究会を4回実施した(最終回はオンラインで一般公開)。 ③アジア諸地域における「ラボラトリー機能」の中長期的応用の観点から、台湾の舞台芸術ネットワーク組織Performing Arts Network Development Association(P.A.N.D.A.)と連携し、《日本・台湾の現代舞台芸術交流プログラム》を3年計画で立ち上げた。初年度は、中心メンバーである日本・台湾双方の批評家、舞台プロデューサーとの間で、オンライン研究会を5回実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
突如生じたパンデミックによる混乱が、世界各地の舞台芸術研究者・アーティスト全体に及んだため、特に上半期については、国外の研究協力者と連携した研究会はおろか、オンラインによる論点整理のための打ち合わせなどの余裕ももてなかった。そのため、理論的研究として初年度に計画していた、「アジア諸国・ 諸地域のアーティストが、自らの創作現場において、「近代化」をどのような具体的相のもとで捉えているのか」をめぐる本格的な調査は、次年度に先送りにせざるをえず、この点では予定よりもやや遅れたスタートとなった。
他方、当初から計画していた中国人アーティストとの共同研究は下半期になんとか間に合い、オンラインを駆使して意見交換し、今後の研究と基盤となる枠組みを共有することができた。また、当初は計画になかった台湾とは比較的早い段階で交流を開始することができたため、日本・台湾の舞台芸術全般に精通している新田幸生(プロデューサー)を研究協力者に迎え、アジアの舞台芸術の未来を志向する舞台関係者の信頼できるネットワーク組織と連携しながら、中長期的に活用できる日台交流のプラットフォーム(ウェブサイト)の立ち上げを協働企画として立ち上げるコンセプト作りができたことは予定外の収穫だった。以上のような場で実現した国際的な視野における議論は、結果として、理論的研究の当初計画の遅れを補い、アジアの舞台芸術における「ラボラトリー機能」の応用の基盤となる「近代化」の論点整理の進展につながった。
総体として、当初の計画では、国外の実践家との対面による研究交流を前提としていただけに、パンデミックによる影響は少なくなかったが、下半期を中心にオンラインを活用した研究事業の運営方法に一定の見通しが立ち、一部の遅れを取り戻すことができ、当初目標の8割程度は達成することができたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
1 初年度に8割程度の達成となった理論的研究、特に国際的観点からみたアジアの舞台芸術における「近代化」の論点整理については、翌年度に予定している国際シンポジウムの本格的な準備が始まる令和3年度上半期に、研究協力者である京都国際舞台芸術祭ディレクター(川崎陽子、塚原悠也、ジュリエット玲子ナップ)の参加と協力を得て議論のネットワークを確立し、当初目標を達成する予定である。
2 当初、本研究プロジェクトの全体を、「理論的研究」と「実践的研究」に大きく分類して計画していたが、実際に研究活動を進めていくと、「実践的研究」において行った最終年度の「ラボラトリー」実践を見据えた研究会での議論が、結果として「理論的研究」の進展に大きな貢献を果たすことが明らかになってきた。当初、理論的研究《視点2》の研究協力者として予定していた村川拓也に、より実践的研究を実施してもらえたことで得られた成果も大きい。上記を踏まえて、2年目以降は両者のカテゴリーを一層緊密にできる運営体制をさらに構築していく必要がある。
3 初年度におけるパンデミックの影響は少なくなく、次年度もなお予断を許さない状況が続いている。こうした現状に鑑みて、令和3年度の研究事業の理論的柱である大規模な国際シンポジウムも、対面での開催が難しいケースも想定しなければならない。その点で、初年度末に、実践的研究の「老いを巡るダンスドラマトゥルギー」研究会における公開研究会として、オンラインで一般公開したシンポジウムに、国内外から約160人のオーディエンスを得たことは予想以上の成果であり、次年度以降も、オンラインの有効な活用を一層進めていく必要がある。
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備考 |
※ 京都芸術劇場ウェブサイトには、本研究課題における研究施設(京都芸術劇場)ならびに連携機関(京都芸術大学共同利用・共同研究拠点)の概要を掲載している。以下のウェブページをあわせて参照。 研究施設(京都芸術劇場)の概要:https://k-pac.org/theater/ 連携機関(京都芸術大学共同利用・共同研究拠点)の概要:https://k-pac.org/openlab/
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