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2021 年度 実績報告書

「奴隷」と隷属の世界史-地中海型奴隷制度論を中心として-

研究課題

研究課題/領域番号 20H00029
研究機関九州大学

研究代表者

清水 和裕  九州大学, 人文科学研究院, 教授 (70274404)

研究分担者 松井 洋子  東京大学, 史料編纂所, 教授 (00181686)
鈴木 茂  名古屋外国語大学, 世界共生学部, 教授 (10162950)
弘末 雅士  立教大学, 名誉教授, 名誉教授 (40208872)
井野瀬 久美惠  甲南大学, 文学部, 教授 (70203271)
貴堂 嘉之  一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (70262095)
高橋 秀樹  新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (80236306)
疇谷 憲洋  大分県立芸術文化短期大学, その他部局等, 教授 (80310944)
鈴木 英明  国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 准教授 (80626317)
研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワード奴隷研究 / 比較史
研究実績の概要

本研究課題は、地中海型奴隷制度という概念を設定することによって、従来「奴隷制度」として扱われてきた固定的な「支配と抑圧」の制度を、各時代・地域における多様な隷属形態との連続性の中で捉え直し、その歴史的意義を問い直すものである。
本年度(令和3年度)においては、奴隷・隷属者の「労働形態」に視座をおいて、その類型化と地域・時代における比較、またそれぞれの環境下における変容などを検討した。これによって地中海型奴隷制度論の検証も進められた。また前年度の研究を受けて、ブラジルを中心とした大西洋南方海域における奴隷制度の展開がひとつの焦点となり、ブラジル人研究者フラヴィオ・ゴメス教授とのワークショップを2回にわたって実施した。国内研究会も年度内に3度実施し、また翌令和4年度の2度の研究会においても、「ジェンダー」と並んで引き続き「労働形態」に関する議論もなされた。これらの研究会やワークショップはすべてオンラインで実施された。
また令和4年から国外渡航が大幅に緩和されたことを受けて、令和5年3月にブラジル共同調査を実施した。この調査においてサンパウロ大学、リオデジャネイロ連邦大学などの奴隷制度研究者たちとの交流が大幅に進展し、令和5年12月に同国リオデジャネイロにおいて、本プロジェクトが主導する国際シンポジウムを実施する予定となった。
これらの成果は国内外の学術雑誌その他に論文および著作として発表した。
本年度の研究は新型コロナウィルス感染の急速な拡大に伴って、繰越をおこなうことにより、令和3年度から令和4年度にかけて実施した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

令和3年度の研究も、引き続き新型コロナウィルス感染拡大によって大きな制約を受けた。しかし引き続きオンライン研究会を実施。また繰越によって令和4年度には海外調査が可能となり、個別の海外調査を開始するとともに、令和5年3月にブラジル共同調査を実施するなどによって、当初予定していた成果を十分に達成することができた。
令和3年度は当初設定した比較研究の3つの視座(1)労働形態、(2)ジェンダーと再生産、(3)奴隷解放と隷属の連続性の比較研究のうち、「労働形態」の視座からの検討・分析・議論を展開した。国内における研究会は5月、7月、8月に実施し、メンバーの研究報告のほか、研究分担者鈴木英明の著作『解放しない人びと、解放されない人びと―奴隷廃止の世界史』(東京大学出版会、2020年)に対する合評会を行い、また東京大学史料編纂所の大東敬典を招いて、オランダ東インド会社の活動を通じた支配と従属のあり方について議論を行った。
さらに11月と1月には、リオデジャネイロ連邦大学のFlavio Gomes教授を招いたオンラインの連続ワークショップを行い、ブラジルにおける奴隷制研究の歴史とその展開、また方法論上の問題を、地方における農場奴隷と都市における家内奴隷のあり方など労働形態に関する議論を含めて討論した。
さらに、これを受けて令和5年3月にブラジルにおける共同調査を実施し、サンパウロ、レシーフェ、サルヴァドール、リオデジャネイロの各都市およびその周辺農地における奴隷制関係の施設などを訪問するとともに、Flavio Gomes教授を始め、サンパウロ大学Maria Helena Machado教授、バイーア連邦大学Carlos Eugenio L. Soares 教授らと共同研究の打合せを実施した。これらにより、令和5年12月の国際シンポジウム開催へ向けた体制構築を行った。

今後の研究の推進方策

令和4年度は3つの視座のうち、第2の「ジェンダーと再生産」の検討を開始する。それに当たっては、第1の視座である「労働形態」に関する議論を十分に踏まえた上で、個々の時代・地域の研究を展開し、比較研究に寄与する。個別の研究と同時に「ジェンダーと再生産」に関する共同調査として、研究分担者井野瀬久美恵の先行研究をもとに、カリブ海域における農場奴隷にみられる奴隷女性たちの生存戦略に注目しつつ、カリブ海域における共同調査を実施する。これはまた、大西洋奴隷交易における北方海域と南方海域の差異の検証にも資することが期待される。
さらに奴隷とジェンダーに係わる研究視点として、バイーア連邦大学Luis Nicolau Pares教授による、ブラジルの黒人奴隷の子孫による宗教儀礼カンドンブレにおける女性の役割に関する報告を予定している。
令和5年12月には、リオデジャネイロにおいて、本プロジェクト主導の国際シンポジウムを開催する。このための準備は、同年3月のブラジル共同調査の際に始めており、その具体化に向けて取り組むこととなる。本プロジェクトは、特定の地域・時代に限定されない広範な分野の研究者を擁しており、その多様性がブラジルを含めた国際的な奴隷研究の展開に大きなインパクトを与えることが予想される。
各メンバーは担当する地域・社会の個別事例の研究を深化させつつ、常時、情報提供・情報交換を行い、連携して共同研究を行う。また、個々メンバーが海外における資料調査、実地調査を実施する。その成果は学術雑誌における論文、単著、また学会報告として国内外に発信する。
このように奴隷・隷属制とジェンダーに関する比較研究の進展と、国際的な研究の発信が今後の大きな方向性となっており、令和2年度に立ち上げたホームページはこれと連動した研究発信の場として活用する。

  • 研究成果

    (23件)

すべて 2023 2022 2021

すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 図書 (7件) 学会・シンポジウム開催 (1件)

  • [雑誌論文] <討議>転換期の歴史教育/歴史教育の転換2023

    • 著者名/発表者名
      井野瀬久美恵、小川幸司、成田龍一
    • 雑誌名

      思想

      巻: 1188 ページ: 8-31

  • [雑誌論文] 忖度する帝国――20世紀前半のペルシア湾地域におけるイギリス非公式帝国と奴隷解放証明書の交付2021

    • 著者名/発表者名
      鈴木英明
    • 雑誌名

      オリエント

      巻: 63-2 ページ: 111-134

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] リヴィングストンの最後のアフリカ探検にみえる第1期ナーシク・ボーイズの渡海経験 : 1866年から1873年まで2021

    • 著者名/発表者名
      鈴木英明
    • 雑誌名

      なじまぁ

      巻: 特別号 ページ: 42-62

  • [雑誌論文] 移動に着目した新たな国家論の可能性へ2021

    • 著者名/発表者名
      鈴木英明
    • 雑誌名

      史潮

      巻: 90 ページ: 63-67

  • [雑誌論文] 玉木俊明評Hideaki Suzuki, Slave Trade Profiteers in the Western Indian Ocean: Suppression and Resistance in the Nineteenth Century への異議申し立て2021

    • 著者名/発表者名
      鈴木英明
    • 雑誌名

      地域研究

      巻: 21-1 ページ: 52-56

  • [雑誌論文] Book Review: Benjamin Reilly, Slavery, Agriculture, and Malaria in the Arabian Peninsula Athens, OH: Ohio University Press, 2015.2021

    • 著者名/発表者名
      鈴木英明
    • 雑誌名

      Orient

      巻: 56 ページ: 165-168

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 20世紀初頭のアメリカ合衆国における優生学運動と断種ー世界初の断種法制定からサンガーの産児調節運動まで2021

    • 著者名/発表者名
      貴堂嘉之
    • 雑誌名

      ジェンダー史学

      巻: 17 ページ: 5-19

    • 査読あり
  • [雑誌論文] コルストン像はなぜ引き倒されたのか――都市の記憶と銅像の未来2021

    • 著者名/発表者名
      井野瀬久美恵
    • 雑誌名

      歴史学研究

      巻: 1012 ページ: 41-50

    • 査読あり
  • [雑誌論文] コロナ禍のなか、過去をたぐり寄せる――コルストン像引き倒しのタイミング再考2021

    • 著者名/発表者名
      井野瀬久美恵
    • 雑誌名

      学術の動向

      巻: 26-12 ページ: 32-37

  • [雑誌論文] 東インド文学とインドネシア民族主義―植民地支配者と異なるヨーロッパ人との出会い2021

    • 著者名/発表者名
      弘末雅士
    • 雑誌名

      なじまぁ

      巻: 特別号 ページ: 63-70

  • [学会発表] ザンジバルのもう一つのコスモポリタン―奴隷交易とシャンバ2022

    • 著者名/発表者名
      鈴木英明
    • 学会等名
      日本アフリカ学会第59回大会
  • [学会発表] イスラーム帝国:保護/隷属の回路と「イスラーム」帝国2021

    • 著者名/発表者名
      清水和裕
    • 学会等名
      日本オリエント学会第63回大会
    • 招待講演
  • [学会発表] Who were “Northern Arabs”?: Appearance in various encounters in the 19th Century Western Indian Ocean2021

    • 著者名/発表者名
      Hideaki SUZUKI
    • 学会等名
      Source Discussion: Terms in Circulation and Categories at Work, 1600-1930
  • [学会発表] 20世紀前半ペルシア湾の真珠採取業と二重の拘束――奴隷制と負債2021

    • 著者名/発表者名
      鈴木英明
    • 学会等名
      2021年度 東洋史研究会大会
  • [学会発表] Emergence of British Lake as Consequence of Anti-Slave Trade Patrol in the 19th Century Western Indian Ocean2021

    • 著者名/発表者名
      鈴木英明
    • 学会等名
      」特別研究「グローバル地域研究と地球社会の認知地図―わたしたちはいかに世界を共創するのか?
  • [図書] 世界史の考え方2022

    • 著者名/発表者名
      小川 幸司、成田 龍一、貴堂嘉之
    • 総ページ数
      378
    • 出版者
      岩波書店
    • ISBN
      400431917X
  • [図書] 東アジアと東南アジアの近世 15~18世紀2022

    • 著者名/発表者名
      荒川 正晴、大黒 俊二、小川 幸司、木畑 洋一、冨谷 至、中野 聡、永原 陽子、林 佳世子、弘末 雅士、安村 直己、松井洋子
    • 総ページ数
      324
    • 出版者
      岩波書店
    • ISBN
      4000114220
  • [図書] 南北アメリカ大陸 ?17世紀2022

    • 著者名/発表者名
      荒川 正晴、大黒 俊二、小川 幸司、木畑 洋一、冨谷 至、中野 聡、永原 陽子、林 佳世子、弘末 雅士、安村 直己、吉澤 誠一郎、鈴木茂
    • 総ページ数
      318
    • 出版者
      岩波書店
    • ISBN
      4000114247
  • [図書] Changing Dynamics and Mechanisms of Maritime Asia in Comparative Perspectives2021

    • 著者名/発表者名
      Shigaru Akita, Hong Liu and Shiro Momoki (ed.) Hideaki SUZUKI
    • 総ページ数
      280
    • 出版者
      Springer
    • ISBN
      9811625530
  • [図書] 帝国のヴェール2021

    • 著者名/発表者名
      荒木和華子、福本圭介、貴堂嘉之
    • 総ページ数
      388
    • 出版者
      明石書店
    • ISBN
      4750352950
  • [図書] 囚われて2021

    • 著者名/発表者名
      沼野 充義、藤井 省三、鈴木茂
    • 総ページ数
      328
    • 出版者
      名古屋外国語大学出版会
    • ISBN
      4908523347
  • [図書] 一九世紀のオランダ商館 下2021

    • 著者名/発表者名
      松方冬子、西澤美穂子、田中葉子、松井洋子、日蘭交渉史研究会
    • 総ページ数
      560
    • 出版者
      東京大学出版会
    • ISBN
      4130263528
  • [学会・シンポジウム開催] Escravidao Africana Atlantica e historiografia no Brasil: caminhos2021

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公開日: 2023-12-25  

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