戦国軍記・合戦図の史料学的研究

2020 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 20H00031
• 研究機関: 共立女子大学
• 研究代表者: 堀 新 共立女子大学, 文芸学部, 教授 (80296524)
• 研究分担者: 湯浅 佳子 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (00282781) ; 龍澤 彩 金城学院大学, 文学部, 教授 (00342676) ; 山本 聡美 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (00366999) ; 薄田 大輔 公益財団法人徳川黎明会, 徳川美術館, 学芸員 (00642779) ; 金子 拓 東京大学, 史料編纂所, 准教授 (10302655) ; 川合 康 大阪大学, 文学研究科, 教授 (40195037) ; 佐島 顕子 福岡女学院大学, 人文学部, 教授 (40225173) ; 高橋 修 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (40334007) ; 山本 洋 金沢大学, 国際機構, 准教授 (50583168) ; 須田 牧子 東京大学, 史料編纂所, 准教授 (60431798) ; 黒田 智 金沢大学, 学校教育系, 教授 (70468875) ; 高岸 輝 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (80416263) ; 井上 泰至 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 人文社会科学群, 教授 (90545790)
• 研究期間 (年度): 2020-04-01 – 2024-03-31
• キーワード: 戦国合戦図 / 戦国軍記 / 家譜 / 軍功書上 / 戦国合戦図屏風 / 源平合戦図屏風 / 東アジアの合戦図

研究実績の概要

交付申請書に記した研究目的は以下の通りであった。
軍記と合戦図の作例のなかから、歴史史料として有用なものを確定し、一次史料の欠を補う記述や、一次史料とは異なる視点に基づく内容を取り出すことを目的とする。このためには慎重で厳密な史料批判、つまり、二次史料の限界性と有効性・可能性を明確にすることが不可欠である。そのため、本申請課題では、文献史学だけでなく文学・美術史学領域の専門を含む共同研究組織を構築した。複数の領域にまたがる方法を連携することで、二次史料を有効活用した新たな史実を発掘し、戦国時代史を再構築することを目指す。
2020年度の共同研究において、さまざまな戦国合戦に関する絵画資料（合戦図、合戦図屏風など）および文献史料（戦国軍記、戦国合戦に関する古文書など）を調査し、分析を進めた。このうち慶長19～20年（1614-15）の大坂冬・夏の陣に関する研究が特筆される。大坂夏の陣に関する「大坂夏の陣図屏風」（いわゆる黒田屏風、大阪城天守閣所蔵）を熟覧し、左隻における仏教用語に関する書き込みを再発見したことは、この屏風の制作目的を知る手掛かりとなった。また、福岡藩黒田家伝来とはいえ、図像における黒田長政の存在感が薄く、他家による制作も主張されている。原本を熟覧した結果、数千人が描かれた群像表現のなかに黒田長政の姿は埋もれてはいるが、顔の着色や特徴的な兜など、他武者とは異なる描き方がなされていることが確認できた。また、大坂の陣に関する軍記物語や、それらの成立に関与した軍学者宇佐美定祐の生涯と著作についても、各自の研究に基づいて追究し、議論を重ねた。その他、黒田屏風以外の「大坂夏の陣図屏風」についても比較検討を進めた。また戦国軍記では、太田牛一「信長公記」についても討議を重ねた。
次年度以降は、大坂冬の陣に関する絵画資料を調査・検討することなどが課題としてあげられる。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

新型コロナウイルスの拡大という思いがけない状況のもとでの共同研究開始となり、史料調査や共同討議がいつできるようになるのか（そもそもできるようになるのか）、不安な状況での共同研究スタートであった。
しかし、当初は画像資料を購入して資料収集に努めたほか、秋以降は史料所蔵機関のご厚意により、大阪城天守閣（大阪市）、石川県立歴史博物館（金沢市）、金沢市立図書館玉川図書館（金沢市）、和歌山県立博物館（和歌山市）、兵庫県立歴史博物館（姫路市）、佐賀県立名護屋城博物館（唐津市）にて史料調査を行うことが出来た。当初予定していた韓国・中国での史料調査は不可能であったが、和歌山県立博物館・佐賀県立名護屋城博物館にて豊臣秀吉の「唐入り」（いわゆる文禄・慶長の役）に関する絵画資料と文献史料を調査することが出来た。もちろん十分な感染対策を取ったうえで、調査参加者数を少数に抑えたものであり、調査結果の共有に苦慮したが、その点は後述する。
コロナ禍で県境を越えて多人数（本研究は研究分担者13名、研究協力者10名）であるため、全員が集まって共同討議することはほぼ不可能であった。そのためZOOMを使用してオンライン研究会やオンライン会議を開催した。オンライン研究会は8月からほぼ毎月1回定期的に開催し、史料調査の振り返りや研究報告会をおこない、調査結果だけでなく問題意識や研究到達点の共有をはかった。当初はコロナ禍でやむなく始めたオンライン研究会であったが、時間や経費を使用せずに各地のメンバーが容易に参加できた。また、発表内容に応じて遠隔地の研究者に参加を呼びかけることもできた。対面での研究会はもちろん重要であり、その意義もあるが、オンライン研究会には予想外の効用もあり、コロナ終息後も継続したいと考えている。
以上の理由により、当初予定とは違った形ではあるが、おおむね順調に進展していると半田する。

今後の研究の推進方策

今後も引き続き、第一に可能な限り史料調査を行い、特に絵画資料を熟覧し、高精細カメラで撮影することと、第二にオンライン研究会を開催してメンバー間で調査結果や研究成果の共有をはかることである。
第一点目の史料調査であるが、コロナがさらに感染拡大する状況にあるので、感染対策を十分にしたうえで、史料所蔵機関と入念に打ち合わせ、研究メンバーの所属機関や各自治体の方針に従いながら、可能な範囲で進める必要がある。調査は引き続き少人数で行うことになるが、後述するように、調査結果や検討結果を共有するためにオンライン研究会を開催してそれを補うことになろう。申請時に予定していた韓国・中国への史料調査は、2021年度は凍結せざるを得ない。
国内での調査については、2020年度は大坂夏の陣に関する研究が進んだので、これとセットになる大坂冬の陣に関する絵画資料・文献史料の調査を行うことが必要である。「大坂冬の陣図屏風」の原本は伝来しておらず、東京国立博物館所蔵の模本、京都芸術大学芸術資料館所蔵の模本（一部）の調査を優先して行いたい。
海外での史料調査が出来ない代わりに、豊臣秀吉の「唐入り」（いわゆる文禄・慶長の役）に関する国内所在の絵画資料の調査を積極的に行う。既に佐賀県立名護屋城博物館所蔵「肥前名護屋城図屏風」については調査済みであり、「肥前名古屋城図」（丹波篠山市教育委員会所蔵）や「肥前名護屋城図屏風」（個人蔵）の調査が実施できるよう、諸方面の情報収集を進めたい。また「源平合戦図屏風」の調査も積極的に行いたい。もちろん戦国軍記や古文書など文献史料の調査も行う。
次に第二点目のオンライン研究会であるが、コロナの終息とは関わりなく、今後も引き続き定期的に行う。現在の毎月1回のペースを堅持することが望ましい。また内容次第ではあるが、豊臣秀吉の「唐入り」関係史料を内容とする場合は、海外の研究者にも呼びかけたい。

研究成果

• [雑誌論文] デジタル人文学の研究と教育に関する基礎的研究 (2021)
  • 著者名/発表者名: 堀新、奥彩子、吉澤弥生
  • 雑誌名: 共立女子大学・共立女子短期大学 総合文化研究所紀要 巻: 27 ページ: 73-86
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] 蔚山城の清正 : 『絵本太閤記』を中心に (2021)
  • 著者名/発表者名: 井上泰至
  • 雑誌名: 読本研究新集 巻: 12 ページ: 1-15
  • 査読あり
• [雑誌論文] 遣明使節の旅 (2021)
  • 著者名/発表者名: 須田牧子
  • 雑誌名: 日本歴史 巻: 872 ページ: 45-54
  • 査読あり
• [雑誌論文] 太田牛一『信長記』振仮名覚書 (2021)
  • 著者名/発表者名: 金子拓
  • 雑誌名: 東京大学史料編纂所研究紀要 巻: 31 ページ: 14-41
• [雑誌論文] 賀茂別雷神社文書中の羽柴秀吉書状について (2020)
  • 著者名/発表者名: 金子拓
  • 雑誌名: 古文書研究 巻: 89 ページ: 122-127
  • 査読あり
• [雑誌論文] De la Voie des esprits demoniaques a la Voie des titans: Reconsideration sur les peintures talismaniques（邦題：鬼神道から阿修羅道へ―辟邪絵再考） (2020)
  • 著者名/発表者名: 山本聡美
  • 雑誌名: PERSPECTIVE 巻: 2020-1 ページ: 167-188
  • DOI: 10.4000/perspective.18343
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] 美術史／日本史の境界と越境の可能性―展覧会・美術全集・デジタル画像― (2020)
  • 著者名/発表者名: 高岸輝
  • 雑誌名: 日本史研究 巻: 700 ページ: 28-44
  • 査読あり
• [雑誌論文] 〔資料〕 融通念佛宗総本山大念佛寺所蔵融通念仏縁起絵巻資料集成 (2020)
  • 著者名/発表者名: 高岸輝、阿部美香、阿部泰郎、神﨑壽弘
  • 雑誌名: 学苑 巻: 961 ページ: 277-361
  • オープンアクセス
• [学会発表] 15～16世紀の赤間関の機能 (2021)
  • 著者名/発表者名: 須田牧子
  • 学会等名: 立教大学公開シンポジウム「港市と渡海者―港を結ぶネットワーク」
• [学会発表] 織田信長と明智光秀 (2020)
  • 著者名/発表者名: 金子拓
  • 学会等名: 亀岡市文化資料館第35回特別講演会
  • 招待講演
• [学会発表] 「麒麟がくる」の時代と鳥取―羽柴秀吉と明智光秀― (2020)
  • 著者名/発表者名: 金子拓
  • 学会等名: 新鳥取県史刊行記念シンポジウム講演
  • 招待講演
• [学会発表] 計量テキスト分析を用いた戦国軍記の分類 (2020)
  • 著者名/発表者名: 山本洋
  • 学会等名: 国文学研究資料館共同研究成果発表会
  • 招待講演
• [学会発表] Scenes from the battlefields of early modern Japan depicted on folding screens (2020)
  • 著者名/発表者名: 山本洋
  • 学会等名: Poland-Japan Academic Exchange Kick-off Symposium
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] 中世絵巻に描かれた霊地と国土―王者と聖者の見た風景― (2020)
  • 著者名/発表者名: 高岸輝
  • 学会等名: 続・古典を読む－歴史と文学－ 長野県立長野高校
  • 招待講演
• [学会発表] 豊臣秀吉冊封関連史料に紙質から迫る―三通の明国兵部箚付原本の検討 (2020)
  • 著者名/発表者名: 須田牧子
  • 学会等名: 国文学研究資料館共同研究成果発表会「新しい軍記関係資料論―理文融合型研究の現在」
  • 招待講演
• [図書] 戦国合戦図屏風の歴史学 (2021)
  • 著者名/発表者名: 高橋修
  • 総ページ数: 528
  • 出版者: 勉誠出版
  • ISBN: 978-4-585-22301-6
• [図書] 仮名草子集成65 (2021)
  • 著者名/発表者名: 花田富二夫、大久保順子、湯浅佳子
  • 総ページ数: 350
  • 出版者: 東京堂出版
  • ISBN: 978-4490307924
• [図書] アジアの海を渡る人々（最末期の遣明船の動向と『倭寇図巻』） (2021)
  • 著者名/発表者名: 上田信、中島楽章（須田牧子）
  • 総ページ数: 488（48-80）
  • 出版者: 春風社
  • ISBN: 978-4861107290
• [図書] 信長徹底解読 (2020)
  • 著者名/発表者名: 堀 新、井上 泰至
  • 総ページ数: 397
  • 出版者: 文学通信
  • ISBN: 978-4-909658-31-9
• [図書] 「月次祭礼図屏風」の復元と研究 (2020)
  • 著者名/発表者名: 岩永てるみ、阪野智啓、髙岸輝、小島道裕
  • 総ページ数: 150
  • 出版者: 思文閣出版
  • ISBN: 978-4784219858
• [図書] 仮名草子集成64 (2020)
  • 著者名/発表者名: 柳沢昌紀、伊藤慎吾、勝又基、花田富二夫、湯浅佳子
  • 総ページ数: 288
  • 出版者: 東京堂出版
  • ISBN: 978-4-490-30769-6
• [図書] 日本美術のつくられ方 (2020)
  • 著者名/発表者名: 板倉 聖哲、髙岸 輝
  • 総ページ数: 800
  • 出版者: 羽鳥書店
  • ISBN: 978-4904702826
• [図書] 絵解く 戦国の芸能と絵画（江戸時代前期の平家物語図扇面について－海の見える杜美術館所蔵「平家物語図扇面画帖」を中心に） (2020)
  • 著者名/発表者名: 小林健二（龍澤彩）
  • 総ページ数: 213（102-113）
  • 出版者: 三弥井書店
  • ISBN: 978-4838233649