研究課題/領域番号 |
20H00107
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齋木 潤 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (60283470)
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研究分担者 |
ディブレクト マシュー 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (20623599)
羽倉 信宏 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所脳情報通信融合研究センター, 主任研究員 (80505983)
上田 祥行 京都大学, 人と社会の未来研究院, 特定講師 (80582494)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 探索行動 / 眼と手の協調 / 文脈手がかり効果 / 計算論的認知モデル / 知覚学習 |
研究実績の概要 |
今年度は、文脈手がかり効果における非文脈試行への効果の般化、VRを用いた3次元空間における視覚探索、文脈手がかり効果に関する新しい知見を含めた計算論的モデルの構築の3つのプロジェクトを進めた。 ①文脈手がかり効果における非文脈試行への効果の般化:文脈手がかり効果は反復される文脈情報の提示により潜在学習された記憶情報が探索を誘導する現象と捉えられてきた。学習された文脈が文脈の知覚的な提示によらず効果を及ぼすのかを検討するために、通常の文脈手がかり実験に、探索画面をノイズで遮蔽して文脈を知覚できない試行を追加して探索行動を検討した。その結果、ノイズ試行では、有意な文脈の効果はみられなかったが、探索時の第1サッカードが非文脈提示試行においても、文脈と連合した標的位置の方に有意に偏ることを見出した。さらに、この偏りは、探索画面提示直前の注視位置でも観察され、文脈手がかりは、文脈の呈示とは無関係に探索時の眼球運動を誘導している証拠を初めて発見した。この現象は、標的をクリックする実験1、標的の向きをキー押しでこたえる実験2で同じように観測され、標的に対する運動反応とは関係ないより一般的な現象であることが分かった。 ②3次元空間における視覚探索:VRを用いた3次元空間の視覚探索課題を用いて文脈手がかり効果を検討した。探索空間全体の探索項目を反復する条件では、文脈手がかり効果を見出すことができたが、標的位置とは視野を共有しない部分空間の配置のみを反復する場合には明確な文脈手がかり効果がみられないことが明らかになった。 ③文脈手がかり効果の計算論的モデル:文脈の学習が、文脈を含まない事態にも般化するという新しい現象を含めて文脈手がかり効果を説明する計算論的モデルの構築に向けて、文脈手がかり効果のモデルに関する先行研究の検討と、新現象の解釈の検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の中心的な課題として進めた文脈手がかり課題の実験から、今までの文脈手がかり効果の根源的な再検討を迫る新しい現象を発見した。この現象は、潜在学習の効果が文脈の物理的な提示が前提ではなく、記憶された文脈情報が自発的に幅広い状況に適用されていることを示している。この現象を軸として、計算論的モデルの構築、環境の改変を伴うアクティブサーチの行動実験へと発展させることができる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、探索行動による外部環境の改変と、内部状態の学習による変容の両者を解明することを目的としてきた。これまでに内部状態の学習に関してきわめて興味深い知見が得られた。このため、外部環境の改変についての検討もこれまでの文脈手がかり効果の実験を基盤として、これを修正改変する形で実験する。これにより、外部環境の改変と学習の相互作用をより一体的に検討することが可能となる。具体的には、文脈手がかり効果の実験で用いられたノイズ試行を改変し、推定される標的位置をクリックさせる代わりに、クリックするとその周辺領域の探索画面が可視化される課題とする。つまり、妨害物の代わりにノイズを用いて、ノイズを除去しながら標的を探索させることにより、アクティブに探索画面を改変しながら探索を行う過程を詳細に分析する。
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