研究課題/領域番号 |
20H00119
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平岡 裕章 京都大学, 高等研究院, 教授 (10432709)
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研究分担者 |
池田 岳 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40309539)
赤木 和人 東北大学, 材料科学高等研究所, 准教授 (50313119)
白井 朋之 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 教授 (70302932)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マルチパラメータ・パーシステンス / シューベルト計算 / ランダムトポロジー |
研究実績の概要 |
期間前半においては主に、2021年度までに得られた大偏差原理に関する成果を、ランダム方体複体モデルを拡張することで一般化し、さらには主張の精密化にも取り組んだ。この設定のもとで大数の法則についても同様の拡張および精密化を行い、現時点で考えられる最も一般的な結果が得られたと考えている。それらの結果を論文として執筆し投稿している。 期間後半からはマルチパラメータ・パーシステントホモロジーの確率論的および組合せ論的研究に従事した。従来の区間近似を一般化させるために「コース」と「ツアー」の概念をクイバーおよびその上の表現に対して導入し、ランク不変量の一般化を定式化することに成功した。ここで区間subquiverに対するコースとはその区間のessential verticesを全て含むあるsubquiverとして与えられる。また与えられた表現に対するコース上のツアーとは、コースが定めるHasse quiver上の表現として定められる。これによって一般の表現を各区間および各コースごと精密に調べることが可能となった。この設定のもとで従来の区間近似同様の一連の性質(ランク関数の一般化、メビウス反転等)が成り立つことが証明できた。この一般化は理論的に見通しを良くしただけでなく、実際のデータ解析に応用する際に近似精度と計算量のトレードオフを制御することを可能にした点も重要な貢献である。また可換はしご型quiver上のパーシステント加群に対してconnected persistence diagramの概念を導入し、計算アルゴリズムの開発や材料科学への応用研究なども実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までの進捗状況は極めて順調であり、当初の計画を超える進展や想定外の方向性での結果も得られている。研究期間前半はコロナ禍の影響があり研究分担者や国内外の関連する研究者と議論を行うことができず難しい時期となったが、2022年度からはほぼ通常通りの研究活動を実施することができ前半の遅れを十分巻き返すことができた。特にランダムトポロジーとマルチパラメータ・パーシステントホモロジーの組合せ論に関する研究では当初の予想を遥かに超える成果を得ることができた。 また本科研費で雇用しているポスドク研究員がオハイオ州立大学に研究滞在できたことも研究が大きく視点したことの要因である。滞在先の数学科にはランダムトポロジーの世界的権威であるMatthew Kahle教授をはじめ、トポロジカルデータ解析における最適輸送やMapper研究で有名なFacundo Memoli教授がおり、彼らおよびそのグループメンバーとの議論によって、世界的な研究動向をしることができ、また国際的な共同研究もスタートすることができた。Kahle教授とは本課題でも問題に挙げているマルチパラメータ・パーシステントホモロジーの確率論的構造定理の構築に向けて日々議論をしており、研究の方向性などで十分なコンセンサスを得ることができた。Memoli教授とはグラフ埋め込みのトポロジカルな正則化項の開発に際して最適輸送理論を応用するアイディアについて議論をして頂いている。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの準備をもとに最終年度ではマルチパラメータ・パーシステントホモロジーの確率論的構造定理の構築に本格的に取り組む。その方針としては、まず「コース」と「ツアー」の概念を用いた新たな区間近似理論を計算機に実装し、大規模な数値計算ができる環境を整備することから始める。我々が開発した区間近似アルゴリズムは表現を経由せずに点過程などから定まる幾何学的なモデルから直接計算できる利点を有する。これによって比較的大規模な点過程データに対しても統計的特徴が確認ができるレベルの大規模数値計算が実施できる。比較的小さな規模での数値計算を実施した感触としては、非区間表現の出現頻度は区間表現よりも圧倒的に少なくなる現象が観測されているので、その主張をより統計的に実証できる数値実験を行い、サンプル期待値の近似値を得ることなどをまずは目指したい。 上記の大規模数値実験ののちに、積分幾何のアイディアを用いた非区間表現の重複度に対する期待値の評価を数学的研究に取り組む。その際重要になってくる現象は、サイクルスプリットと呼ばれるより大きなサイクルが小さな2つのサイクルに分裂する事象である。これにより可換はしご型クイバーのある頂点上で2次元のベクトル空間が直既約表現に出現できることになる。このサイクルスプリットをCech複体を用いた点群モデルによる幾何学的実現で構成し、その出現期待値を実現可能な配位空間で積分することで導出する。想定される困難としてはsubcritical regime点過程に現れるような「minimal model」の概念が存在するかどうかを検証する必要がある。
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