研究課題/領域番号 |
20H00122
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
求 幸年 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (40323274)
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研究分担者 |
大久保 毅 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任准教授 (00514051)
那須 譲治 東北大学, 理学研究科, 准教授 (40610639)
加藤 康之 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (50708534)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 磁性 / 強相関電子系 / 物性理論 / 計算物理 / トポロジー |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、研究計画に沿って研究を推進し、以下の研究成果を得た。(1) キタエフ模型を実現する新しいプラットフォームとして提案されている冷却分子系を念頭に、長距離にわたるキタエフ型相互作用を持つ模型に対して汎函数繰り込み群法を用いた研究を行い、キタエフ量子スピン液体が長距離相互作用に対して不安定であることを明らかにした。(2) 高スピンキタエフ量子スピン液体に関する理論・実験研究に刺激を受け、汎函数繰り込み群法を用いて、一般のスピン長Sを持つキタエフ-ハイゼンベルク模型の基底状態相図を解明した。Sを大きくするにつれて量子スピン液体のパラメタ領域が急速に狭くなり、S>3/2ではほぼ消失することを示した。(3) キタエフ候補物質α-RuCl3における熱ホール伝導度の半整数量子化を理解する目的で、拡張キタエフ模型に対する指数熱テンソルネットワーク法を用いた計算を行い、熱ホール伝導度の温度・磁場依存性を明らかにした。(4) キタエフ量子スピン液体に対する実時間シミュレーションを行うことで、マヨラナ粒子がフラックス励起によって大きく散乱されることを見いだし、その散乱パターンにバイゾン励起の背後にあるゲージ場の特徴が表れることを明らかにした。 これらに加えて、当初計画になかった内容として、以下の研究成果を得た。(5) 機械学習で用いられる自動微分を用いて、所望の物理的性質からハミルトニアンを求める逆問題に対する効率的で汎用性の高い解法を開発した。それを異常ホール伝導度や光起電力の最大化問題に適用し、既存のハミルトニアンを超えるモデルの構築に成功した。(6) 物理リザバーコンピューティングにおいて、リザバーとして磁性体を用いた場合に問題となっていた熱揺らぎへの脆弱性を解決する枠組みを開発した。それを応用することで、時空間にわたる超並列計算が可能となることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画していた研究内容について着実に研究成果が得られただけでなく、当初計画していなかった内容として、逆問題に対する汎用性の高い計算手法の開発、およびフラストレート磁性体を用いた物理リザバー計算の新しい枠組みを開発することができたため。これらの新手法は本プロジェクトでも有用となる可能性が高い。前者については、日本経済新聞や日刊工業新聞など広く報道され、後者については特許を出願中である。また、これらの成果について、学術論文を発表するだけでなく、国内外の学会や研究会等で精力的な成果発表を行い、そこでの参加者との積極的な議論を通じて、さらに新しい研究展開にもつながっているため。とりわけ、研究代表者が編集委員の一人となり、固体物理(アグネ技術センター)において「キタエフスピン液体の新展開」と題した特集号をとりまとめたことは、研究の最前線を広く伝えるだけでなく、発展・拡大の途にある本研究分野により多くの研究者が興味を惹きつける契機となっている。また、研究代表者が、日本物理学会オンライン物理講話にて「量子スピン液体:磁性とトポロジーが出会う不思議な量子状態」と題して、キタエフ量子スピン液体に関する最新の研究成果も含めて一般講演を行ったことも、専門外の方々も含めた広い聴衆へのアウトリーチとして特筆すべき成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
計画に沿って着実な研究遂行を継続する。加えて、今年度得られた新しい研究成果を踏まえ、当初計画に関連したトピックに興味をおし広げ、磁性体に現れる新奇な準粒子励起の創出や制御に関する研究を推進する。とりわけ、スピン液体とスピン液晶の競合や、量子物理リザバー計算、多変数変分モンテカルロ法の開発など、物理的な内容と計算手法の両面で萌芽的な研究成果が現れつつあるため、これらを足がかりにさらなる研究の飛躍的な発展を狙う。また、4f電子系や3次元系における量子スピン液体の可能性や、スピン注入、端上のスピンを用いた磁気共鳴など、実験的に興味深い成果が出つつあるため、実験グループとのより一層緊密な共同研究を推進する。
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