生命活動にとって温度は重要な役割を果たしていることが知られているが、細胞活動と細胞温度の関係には未解明な部分が多い。これまでの細胞温度計測は、局所温度に応じて強度や寿命が異なる蛍光温度プローブにより行われてきたが、蛍光プローブによる間接的な計測は細胞内の他の環境変化にも依存するため、温度計測の正確さに不定性が残る。本研究では、蛍光温度プローブを用いずにラベルフリーで細胞温度を計測する手法、および、熱拡散を可視化する計測手法を開発している。 細胞内の温度・熱拡散をラベルフリーで計測する赤外フォトサーマル光回折トモグラフィシステムを構築し、光加熱後の細胞内での熱拡散率の定量を行ったところ、水の熱拡散率に近い値が得られた。また、本手法を用いて光加熱による細胞内温度の変化を計測し、蛍光温度プローブによる計測との比較を行ったところ、双方で異なる時間変化が観測された。本手法による計測で得た温度変化は、計測した熱拡散率と矛盾しないことから、これらの結果は蛍光温度プローブの計測が温度を決める熱エネルギー以外の内部エネルギーの影響も受けている可能性を示唆する。 細胞内温度を定量するための別のアプローチとして自発ラマン散乱を用いたシステムの構築も行った。水を対象として計測システムの温度定量評価を実施したところ、数時間にわたる長時間計測の際にはシステム内の分光器の温度変動の影響などが認められた。これらの問題を解決する対策を講じ、より長期安定性のある温度計測システムを構築した。さらに、細胞を対象にする計測の際に問題となる蛍光スペクトルの除去を行う計測・解析手法を開発した。
上記以外のラベルフリー分光手法の開発も行い、特に、波長変換技術を用いた超高速タイムストレッチ赤外分光法の実証に成功した。
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