研究課題
2018年11月に超伝導が発見されたUTe2(ウラン・テルル2)は、超伝導転移温度(Tc ~ 1.6 K)であるものの超伝導は磁場に対してとても強く結晶のb軸に16テスラ以上の磁場を印加すると転移温度が上昇するという驚くべき振舞いを見せる。この結果からUTe2では対状態にある二つの電子スピンの向きががそろった(平行方向の)スピン三重項状態の超伝導が実現していることが期待されている。このスピン三重項状態では超伝導でもスピン自由度が残っており、スピンは外部磁場と同じ方向をとることにより、高い磁場まで超伝導は生き残ると予想されていた。しかし、スピン三重項状態の超伝導は非常に稀であり、現在までその物理性質は理解されているとはいいがたい。本申請は、UTe2に絞り、①UTe2におけるスピン三重項超伝導の同定、②スピン三重項超伝導で期待される超伝導多重相の理解、③スピン・軌道の自由度を持った超伝導対に由来する集団励起の検出、④超伝導の発現機構の解明、など、「スピン三重項超伝導に起因した新奇現象の発見と理解」を目指した研究である。今年度はUTe2に対し、Te125核の核磁気共鳴(NMR)測定を行った。具体的には低磁場1テスラをb軸に印加し超伝導状態における核スピン-格子緩和率の測定、超伝導状態のスピン磁化率を知るためのナイトシフト測定を行った。その結果UTe2は、通常金属で見られるような従来型超伝導とは異なること(非従来型超伝導体)、超伝導状態におけるスピン磁化率の減少はスピン一重項状態の時に期待される減少に比べ1桁程度小さいものでスピン三重項超伝導を示唆する結果が得られた。スピン三重項超伝導実証のためには、すべての結晶軸に対してナイトシフトの測定をする必要があり、そのためにはNMR可能なTe125核をエンリッチした試料を作成する必要があることを実感した。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、Teを核スピンをもつTe125にエンリッチしていない通常のUTe2に対しTe125核の核磁気共鳴(NMR)測定を行った。具体的には低磁場1テスラをb軸に印加し超伝導状態における核スピン-格子緩和率の測定、超伝導状態のスピン磁化率を知るためのナイトシフト測定を行った。その結果、超伝導転移直下に通常金属で見られるような1/T1の増大は見られず、低温で比熱に見られたような残留状態密度の存在が観測された。この結果は、UTe2は通常金属で実現している従来型超伝導とは異なることなり、銅酸化物や重い電子系物質で知られている非従来型超伝導体であることを示している。さらに、超伝導状態におけるスピン磁化率の減少はスピン一重項状態の時に期待される減少に比べ1桁程度小さいもので、スピン三重項超伝導を示唆する結果が得られた。今年度は、UTe2に対し重要な研究の取り掛かりが出来た。
今年度の研究結果を受け、今後NMR実験を加速し、実験精度を上げた測定をするためには、NMR可能なTe125核をエンリッチした試料を作成する必要があることがわかった。この試料を用いて、以下の測定を行う。① すべての結晶軸に対してのナイトシフトの測定を行い、低磁場でのスピン三重項超伝導を実証し、どの超伝導状態が実現しているか同定する。② UTe2の超伝導は2GPa以上の圧力で消失することが報告されている。非超伝導相の磁気状態を125Te-NMR測定から調べる。内部磁場の様子や外部磁場の応答から、非超伝導相の磁気状態を明らかにする。さらに常伝導状態の磁気ゆらぎの圧力依存性を調べ、重い電子状態と超伝導の関係を調べる。③ UTe2の試料依存性を125Te-NMR測定から調べる。比熱測定から見積もられる超伝導状態での残留状態密度の大きさは試料依存性があり、超伝導転移温度にも関係が見られる。残留状態密度が小さく超伝導転移温度の高い試料を測定し試料依存性がNMRの実験結果にどのような影響を与えているのかを調べる。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (28件) (うち国際共著 25件、 査読あり 28件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (42件) (うち国際学会 13件、 招待講演 17件) 備考 (2件)
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