研究課題/領域番号 |
20H00132
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
白濱 圭也 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (70251486)
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研究分担者 |
永合 祐輔 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (50623435)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 物性物理 / 量子流体固体 / 超流動 / 量子相転移 / ヘリウム |
研究実績の概要 |
本研究は、2次元ヘリウムに期待される新奇量子現象を、申請者が確立した量子相転移の普遍的描像に基づいて観測し、物性物理学の発展に資するものである。2020-21年度には以下の進展があった。本研究の予備的実験として、ガラス基板上水素及びヘリウム薄膜の交流誘電率測定を行ったところ、吸着量に依存した温度域で誘電損失のピークをともなう誘電率の異常な減少を観測した。両年度においてこの誘電質測定をH2および4He薄膜について詳細に行い、水素薄膜については測定を終了した。この誘電異常は、その温度依存性と発生する温度や吸着量が、本研究の基礎となっていた薄膜の弾性異常と酷似していることが判明した。このことは、誘電率測定が従来試みてきた吸着薄膜の弾性測定に代わりうることを示している。 誘電率は弾性に比べ測定が容易でありかつ任意の周波数で測定可能であるため、2次元ヘリウムの新規量子現象の発見に有用であると考えられる。これまでの測定では温度域が0.4K以上に限られ、ヘリウム薄膜に期待される量子相転移近傍の測定には至っていないため、今後測定温度域の下限を拡張して量子相転移近傍の測定を行う。 また本研究の基本的アイデアの一つである、高周波フォノン生成によるギャップ固体およびボースグラスからの非平衡超流動状態の実現については、超伝導トンネル接合素子の対を作成して単結晶シリコン中でのフォノン生成と検出を試みたが、明確なフォノン生成は確認できなかった。このため、より容易にフォノン生成が可能な金属薄膜からの熱パルス生成の手法に切り替えて素子作成を進めている。この他に、ヘリウム3薄膜における純2次元トポロジカル超流動状態の探索を目指した無冷媒核断熱消磁装置の開発を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、グラファイト上ヘリウム薄膜の超流動及び弾性測定用に所有する希釈冷凍機の真空漏れにより、2021年度への繰越を余儀なくされた、また重要課題の一つである分子薄膜へのフォノン照射については、超伝導トンネル接合素子を多数作成してのフォノン生成と検出を試みたが、成功に至らなかった。このためより製作が容易だが周波数特性が劣る熱パルス法に方針を転換した。従ってグラファイト上ヘリウム薄膜の物性測定とフォノンによる非平衡超流動探索に、遅れが生じている。 一方、水素及びヘリウム薄膜局在状態で観測された誘電異常は本研究の重要な発見であり、誘電率測定が今後局在状態と量子相転移機構の普遍性解明に大きく貢献することは間違いない。グラファイト上ヘリウム薄膜での誘電率測定はグラファイトが導電性のため困難と予想されるが、実験装置の改良により測定できる可能性があること、またグラファイトに代わる平坦な基板として絶縁体の六方晶窒化ホウ素(h-BN)を用いることで、量子相転移描像の普遍性解明が大きく進む可能性が出てきた。 以上の研究進捗状況を総合的に判断して、やや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は超伝導トンネル接合素子に変えて金属薄膜ボロメータによる熱パルスの生成検出に研究の重心を移す予定である。また、水晶や酸化亜鉛(ZnO)製の超音波トランスデューサを用いた、低周波(1GHz以下)のフォノン生成検出も本格的に開始する。これにより、期待される薄膜超流動密度の増強効果や量子臨界点近傍での非平衡超流動探索を進める。 グラファイト上ヘリウム薄膜の超流動固体状態の解明については、弾性測定が終了しているため今後研究の取りまとめを行うとともに、誘電率測定の可能性を調べる。また絶縁体の六方晶窒化ホウ素(h-BN)を基板に用いて、誘電率と超流動特性の両方を同時に測定する装置の開発を開始しており、超流動固体状態の解明にある程度の目処が付くと考えている。 2次元ヘリウム3薄膜のトポロジカル超流動研究についても、実験装置の製作を進めていく。
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