研究課題/領域番号 |
20H00136
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小野 靖 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (30214191)
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研究分担者 |
田辺 博士 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (30726013)
堀内 利得 核融合科学研究所, その他部局等, 名誉教授 (00229220)
井 通暁 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (00324799)
宇佐見 俊介 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (80413996)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 合体加熱 / 高ベータ化 / 第二安定化 / 球状トカマク / 核融合点火 / 磁気リコネクション / リコネクション加熱 / 絶対極小磁場 |
研究実績の概要 |
開発予定のトカマク合体加熱は出力密度がポロイダル磁場強度の2乗で決まり,寸法によらないため,中小型の合体実験:英国ST-40に加え,東京大学球状トーラス(ST)合体実験TS-6,TS-4U,UTSTで,高磁場ST合体を実現し,高温・高ベータSTを生成すべく,初年度は高磁場用電源系・コイル系,計測等のインフラを整備した。新型コロナウィルス蔓延により部品調達が遅れたが,コンデンサー電源に電流制御回路を付加して安定な高磁場合体を実現し,高精細画像計測として,独自開発のプリント基板型磁気プローブ計測,外部磁場計測とMHDシミュレーションを組み合わせた内部磁場再構成,ドップラートモグラフィーを用いたイオン温度画像計測,X線カメラによる高エネルギー電子の画像計測を完成し,レーザの往復反射と飛行時間差を用いた電子温度・密度画像計測も8割完成した。特にST合体加熱の最大化手法をほぼ確立し,合体によって電流シートをイオンラーマ半径程度まで圧縮すると,X点下流に形成される静電ポテンシャルの山と谷の落差が再結合磁場にもガイド磁場にも比例することを見出し,再結合磁場の2乗に比例するイオン加熱が説明できるようになった。合体生成された高ベータSTはホローな高イオン温度分布,高熱圧力分布を持つことや,条件によって絶対極小磁場分布が得られ,ベータコードで解析すると第2安定状態が実現できたことが判明した。成果はFEC2020会議において,合体STによる負磁気シア・絶対極小磁場の形成や第2安定化の実現を述べたオーバービュー論文の他,合体による巨視的イオン加熱,合体による高エネルギー電子発生を実証したX線計測,ブラスモイドによる高速合体加熱発生,合体の粒子シミュレーション解析の5件全てが日本代表論文に選定され,5件のNuclear Fusion論文となり,小野,田辺,院生3名の受賞につながった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルス蔓延によって部品調達や英国ST-40との国際共同実験に複数の問題が発生したものの,合体実験の高磁場化に必要な電源系,コイル系,5種類の2次元高精細計測系の全てについてインフラ整備をほぼ完了し,高磁場球状トカマク(ST)合体実験を開始することができた。また,MHDシミュレーションと外部磁気プローブ列計測を融合して,内部磁場を再構成する手法の開発に成功したことから,高温実験用の磁気計測も整ってきた。合体リコネクションによる巨視的イオン加熱を最大化する手法を見出し,合体で高ベータ化したST特有のホローな電流・圧力分布の形成や負磁気シアや絶対極小磁場の形成を詳細計測し,第2安定化の実証につなげた他,新設のX線計測によって合体STにおける高エネルギー電子発生の発見,新設高精細磁気プローブによる合体ST中央の電流シートが実は複数のプラズモイドから構成されるとの計測結果,合体STの粒子シミュレーションによるイオン・電子加熱機構の解明まで,核融合研究の中心会議であるFusion Energy Conference 2020おいて本研究から5件もの日本代表論文が選ばれた他,多くの学会から招待講演の依頼をいただいた。こうした高磁場・超高温領域の開拓により,今まで実験室天文学を含む物理実験であったリコネクション室内実験を衣替えし,超高出力の合体プラズマ加熱という新しい発展分野を確立することができた。
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今後の研究の推進方策 |
トカマクプラズマ合体実験の高磁場化に必要な電源系,コイル系,5種類の2次元高精細計測系のインフラ整備をほぼ完了したことから,それをベースに1)ST合体加熱による高温・高ベータST生成と2)スフェロマック合体で生成した磁場反転配位に後からトロイダル磁場を印加して高温・高ベータSTに変換する手法を比較しながら,生成配位のホローな温度分布,電流分布について安定性と輸送特性を検証・最適化する。高温実験では内部磁気プローブを抜いた磁気計測がキーとなるので,昨年度開発が軌道に乗ったMHDシミュレーションと外部磁気プローブ列計測から内部磁場を再構成する手法の完成度を高め,日英の合体加熱実験で運用・最適化を開始する。しばらく現地参加できなかった英国ST-40を加えた日英4つの合体実験で得た2次元画像計測データと堀内・宇佐見の粒子シミュレーション,Chengらの安定解析の間で画像比較を開始し,合体生成された高ベータST配位の独特な安定性・輸送特性について知見を増やしつつ,合体加熱による高ベータ配位生成の最適シナリオ構築に着手する。合体生成された高ベータSTが持つホローな高イオン温度分布,高熱圧力分布に注目し,配位の圧力駆動型不安定や電流駆動型不安定の検証と配位の安定化を目指す。第2安定状態との関連に注目しつつ,絶対極小磁場分布の生成条件とその効果を徐々に明らかにし,合体加熱を用いてこの配位を最適化して限界ベータの検証を開始する。また,合体によって形成される特異な負磁気シアを現状のトカマクの負磁気シア運転と比較しつつ,期待される配位の輸送障壁の形成と高温・高ベータ状態の配位の安定化,さらに高い自発電流割合の実現を目指した実験を開始する。
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