研究課題/領域番号 |
20H00141
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
難波 愼一 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 教授 (00343294)
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研究分担者 |
岸本 牧 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学領域, 上席研究員(定常) (40360432)
奥野 広樹 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 副部長 (70280716)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | プラズマウィンドウ / アークプラズマ / 真空インターフェース |
研究実績の概要 |
2020年度は,小口径(3mm)と大口径(8mm)のプラズマウィンドウを実用化するための陰極構造の大幅な見直し,及び,大放電電流化に向けた電源増強を行った.両放電装置に共通の改良点として,放電を安定化するためのR, C回路を製作し,突発的な過放電電流を防ぐ対策を講じた.この効果を実際に確認するために,回路内に電流モニター用ホール素子を組み込み,電流値をミリ秒単位で計測した結果,極めて安定なアーク放電が発生できることが判明した.一方,放電電源を新たに購入し,大電流化にも対応できるようにした.具体的には,これまでトランス型の放電電源を用いていたが,その老朽化,コンデンサーの異常放電が頻繁に起こっていたため火災等の危険があった.そこで新しい電源にはSCR型を採用して安全性を向上させ,且つ,放電電流を最大で200Aまで流せるようにした.また,放電電圧に対してもこれまでの200Vから230Vまで耐えられる仕様とすることで,瞬間的な放電電圧上昇でもプラズマ消火に耐えられるようにした. これらの改良を行った後,各プラズマウインドウでの圧力隔壁実験を進めた.その成果として,3mm径プラズマウィンドウとしては放電電流60Aにおいて大気圧100kPa以上と50Paの圧力差の発生に初めて成功した.また,8mmプラズマウィンドウでは,新たに傍熱型ホローカソード熱陰極を新たに設計・製作し,50A放電でも安定してプラズマが発生することが確認できた.中間電極を有する改良型アーク放電でこのような大電流放電に成功した例はかつてなく,極めて良好な結果が得られたと言える.両プラズマウィンドウとも着実にバーチャル真空インターフェースの性能が飛躍的に向上しており,今年度の成果としては十分なものが得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小口径(3mm)のプラズマウィンドウで目標とする圧力隔壁性能は大気圧100kPaと1Paに設定している.本年度は従来の自己加熱型ディスク上LaB6熱陰極ではなく,ホローカソード型LaB6陰極を採用することで,放電電圧の低下,及び,放電の安定化,大電流化を試みた.その結果として放電電流が60Aと低い値にもかかわらず,大気圧と50Paの圧力隔壁を初めて実現することができた.高気圧側が大気圧まで達したのは今回が初めてであり,着実に小型プラズマウィンドウ開発が進んでいることを世界にアピールすることができた(成果をまとめた論文は現在執筆中). 一方,我々が独自に設計製作した傍熱型ホローカソード熱陰極を採用することにより,大口径(8mm)プラズマウィンドウに大幅な改良を加えた.これは上記の3mm径熱陰極にヒーターを付け加え,強制的に熱電子を発生させるものである.改良型アーク放電では我々が世界で初めて採用した.プラズマ発生実験を行った結果,50Aでも安定して放電できることが確認できたが,残念ながら放電による熱電対ケーブルが断線し,現在は修理中である.なお,圧力隔壁性能は目標値7kPaと1Paであるのに対し,現在は高気圧側4kPa,低気圧側20Paと目標と隔たりがあるが,これは放電電流・電圧が低いためであり,新型熱陰極に熱損傷対策を施すことで,飛躍的に改善できると考えている. 以上の研究開発成果により,現在の進捗状況はおおむね順調に進んでいる,と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
現在,プラズマウィンドウを実現する際の最大の問題は中間電極,及び,陽極の熱損傷,及び,電極間のスパーク放電である.熱損傷に関しては,実験室が6階にあり,水冷設備が(水量・水圧)が十分ではないためである.今後は中水を直接屋上のタンクから受水することにより,冷却性能の強化を図ることでこの問題を解決する.同時に,最も熱負荷が掛かる電極部には空冷式チラーにて冷却しているが,今後は水冷式大容量チラーに変更することにより,冷却能力を3倍程度まで高める.一方,プラズマと接するモリブデン材を如何に効率よく冷却するかを現在,研究代表者と機械工学の大学院生を中心に毎週検討しており,2021年6月末までに仕様を決定し,装置設計・製作する予定である.これらの対策により,熱損傷問題は完全に解決できると考えている. 一方,スパーク放電の原因はいわゆるパッシェンの法則から決まる電極間距離とガス圧力の関係により発生するものである.したがって,如何に電極間の電位差を適切な値にするかがスパーク放電抑制の鍵を握る.そのため,中間電極厚み,枚数とガス圧力の関係を詳細に実験的に調べ,スパーク放電が起こらない放電条件でプラズマを発生させることにする.さらに,追加措置としてアルミナ,あるいは,窒化ボロン材といった耐高温絶縁材を各電極間に挟み込む.これらの対策によりスパーク放電を完全に抑えることができると判断している. 次年度はこの2点を重点的に行い,2022年度のプラズマウィンドウ応用実験が行えるまで圧力隔壁性能を高める.
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