研究課題/領域番号 |
20H00149
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
横山 将志 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (90362441)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ニュートリノ / 反応断面積 / 粒子測定器 / CP対称性 |
研究実績の概要 |
T2K長基線ニュートリノ振動実験において,新たな前置検出器SuperFGDを用いてニュートリノ-原子核反応断面積の精密測定を行い,その結果を元にニュートリノ反応モデルの信頼性を高め不定性を削減することで,ニュートリノ振動の測定精度を究極まで高めることを目標としている。SuperFGD は,1 cm角の立方体のプラスチックシンチレータを多数並べて,3方向から波長変換ファイバーで読み出すことで荷電粒子の飛跡の3方向への射影を不感領域なく得ることができる検出器である。SuperFGD検出器の建設自体は別予算で進んでおり,本研究ではSuperFGD建設後にすぐさま運用を定常化し,その性能を最大限に引き出すための開発を行っている。 世界的な感染症流行の影響で建設プロジェクト全体のスケジュールが遅れる中で,本研究においては建設後の立ち上げをより効率的に行い,物理成果を得るまでの時間を最小化するための開発に注力した。具体的には,博士課程学生がスイス連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)に約半年間滞在し,現地のソフトウェアエキスパートおよび大学院生と緊密に協力して飛跡・事象再構成ソフトウェアや機械学習を用いた新たな解析ソフトウェアの開発を進めた。さらに,修士課程の学生を中心に,SuperFGDに使用する大量の光検出器の特性をこれまでよりも詳細に測定するシステムを確立し,測定器の特性の理解を短時間で行えるようになった。また,建設後の検出器運用に備えて検出器の較正アルゴリズムの開発を開始した。これらの研究活動は,検出器の運用の一線で活躍し,研究の現場を担う若手研究者の育成にもつながっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルスによる感染症の世界的流行の影響を受けて,SuperFGD検出器の建設計画そのものには遅れが生じている。ただし,本研究においては建設後の安定な運用を素早く立ち上げ,また装置の性能を最大限に引き出すことで,できるだけ早い物理成果の創出につなげるという目的で開発を行っており,結果として運用・データ解析までの計画としては遅れを最小化することができる見込みであり,総体として研究はおおむね順調に進展している。また,各種テーマにおいては大学院生が主体的に研究に取り組んでおり,若手研究者の育成という面でも順調な成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度末にはいよいよSuperFGD検出器がJ-PARCに設置され,本研究の主目的であるその運用とデータ解析が開始できる予定である。引き続き,ハードウェア・ソフトウェア両面において開発を続け,検出器建設後の速やかな運用へとつなげる準備を整える。 ただし,SuperFGD検出器の主要部分はロシアで製作されており,国際情勢の影響によりJ-PARCへの設置が遅れる可能性もある。著しい遅れが避けられない場合には,新しく開発した再構成アルゴリズムの一部を現存の前置ニュートリノ検出器のデータを用いて検証し,その性能を向上させるとともに新検出器へのベンチマークに利用するなどの代替案により,研究の進展と物理成果の創出につなげる計画を用意している。
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