研究課題/領域番号 |
20H00150
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
黒田 直史 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (10391947)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 反水素原子 / ラムシフト / マイクロ波分光 / 反陽子 / 荷電半径 |
研究実績の概要 |
昨今の状況から、スイスにある CERN および ETH 現地に渡航できない状況となっている。そこで、我々がスイスに送ったプロトタイプの分光装置を用いて、現地の共同研究者が開発したライマンα光検出器とともに水素原子によるテスト実験を進めた。テスト実験では 9keV の陽子ビームを炭素薄膜を通過させることで、水素原子ビームに転換する手法を用いた。これにより室温の水素ガスを解離して得られる水素原子線に比べて、反水素原子で予定しているのに近い実験条件を作り出すことができた。この手法では 2S 状態の水素原子も同時に多数生成される。結果として、分光装置に印加したマイクロ波によって 2S 状態から 2P 状態へ遷移し直ちに基底状態へ脱励起することが捉えられ、本研究での手法でラムシフト分光のプロファイルが得られることを確認した。これによって本研究で開発を進めていく実験手法の有効性を示すことができた。 日本においても、平行してマイクロ波分光装置の高精度化を目指し、2S 状態の超微細構造を選別するマイクロ波照射装置の設計を進めた。これまで平行平板型電極を用いた伝送線として構成していたが、超微細構造選択装置については、分光部と違って特定の周波数のマイクロ波を印加することから、マイクロ波の共振条件を考慮した形状とした。これによって従来の 5 から 10 倍の電場強度を得られることがわかった。 また、ラムゼーの SFO 法を適用する分光装置開発のための水素原子源の整備を開始し、水素原子線生成用真空チャンバーの設計および水素ガス解離用マイクロ波キャビティの開発を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
感染症の世界的な拡大によってスイスへの渡航が困難な状況となっているが、現地に送ったプロトタイプとなるマイクロ波分光装置を用いて現地の共同研究者が、水素原子でのマイクロ波遷移の観測に成功し、本研究で開発する測定手法の有効性を示すことができた。国内にあっては、高精度化を目指した超微細構造選択装置の設計を進め、製作にとりかかれるところになっている。これによって当初予定していた単一のマイクロ波共振器を用いた分光装置が完成する。 また、それに続くラムゼー法に基く分光装置のための水素原子線生成装置の設計と開発を開始した。特に、ELENA からの反陽子ビームを反陽子トラップで一旦捕捉、冷却することでビームのエネルギー広がりを大幅に抑えることができる。ラムゼー法での分光時に重要となる可能性があり、そのためのトラップ電極の整備も行った。
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今後の研究の推進方策 |
現地の共同研究者と隔週で連絡をとりながら研究を進めているが、感染症蔓延によるスイスへの渡航・滞在が困難な状況がまだ長く続く場合、装置の遠隔操作を用いてビームタイムに参加してデータ取得等を進めることを検討している。 2020年度中に励起状態水素原子でのラムシフト遷移を確認できたので、今後は2020年度に設計した超微細構造選択装置を分光装置に付加して、水素原子において十分な測定精度が得られることを確認する。また、CERN における ELENA の稼動が 2021 年度 8 月下旬に予定されているため、反陽子の供給が始まり次第、励起状態水素原子の信号確認実験、次いでマイクロ波による遷移確認実験を進める。 国内においては、水素原子線発生装置を完成させ、ラムゼー法用の分光装置を開発する。
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