研究課題/領域番号 |
20H00155
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
仲澤 和馬 岐阜大学, 教育学部, 教授 (60198059)
|
研究分担者 |
吉田 純也 東北大学, 理学研究科, 助教 (60573186)
肥山 詠美子 東北大学, 理学研究科, 教授 (10311359)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | ダブルハイパー核 / 原子核乾板(エマルション) / 全面探査 / 機械学習 / 厳密少数理論計算 |
研究実績の概要 |
過去の数十倍のダブルハイパー核を検出し、新たな知見を得るためには、生成・崩壊という特徴的な形状を高速に撮像して検出する顕微鏡駆動システムの構築と、生成核種を同定するための崩壊娘粒子の静止点までの自動追跡とその粒子同定が必要である。 顕微鏡の高速駆動システム構築のために、日本製の特注対物レンズ用ピエゾ4台を購入し稼働させることができた。これにより、適度な時間で原子核乾板を光学顕微鏡で網羅的にスキャンすることが可能となり、取得した画像からダブルラムダハイパー核やグザイハイパー核事象を検出する顕微鏡システムを開発した。そのために、機械学習ベースの画像認識を導入すべく、その基礎となる画像分類器を開発した。さらに機械学習ベースの物体検出器を導入し、シミュレーションによって生成した模擬画像を用いてこれを訓練し、実際の画像の中から目的とする事象を検出できる事を実証した。 崩壊娘粒子を同定するために、光学顕微鏡より高い空間分解能を持つSPring8のX線を、乾板中の事象観察の光源とするX線顕微鏡の開発を開始し、光学顕微鏡より2倍高い空間分解能で観察することが可能となった。 理論面では、第一原理からなるΞN相互作用が構築されたのを受けて、この相互作用を使用し、最も軽いΞハイパー核であるNNΞ、NNNΞ原子核の束縛の有無を研究した。その結果、NNNΞシステムは束縛することが判明し、実験の可能性を議論した。この業績は、Physical Review Lettersに掲載され、また、プレスリーリスを行った。 また代表者が2020年(第66回)仁科記念賞を受賞したところ、新聞5紙、ネット配信40件、ホームページ掲載7件などで報道された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
画像分類器の開発を通じて機械学習ベースの画像認識に習熟した。また、開発した画像分類器によってエネルギー較正に用いるα崩壊事象の目視選別作業が約1/7に削減され、解析を効率化した。さらに物体検出器を開発し、ハイパートライトンといった最も軽いシングルハイパー核の崩壊事象が、写真乾板を網羅的にスキャンした画像の中から検出できる事を実証した。またX線顕微鏡の開発により、ダブルハイパー核の生成・崩壊の場所が近接(約1~2ミクロン)した事象の分岐点を識別することが可能となった。 軽いΞハイパー核の束縛の議論は重要であり、このことを理論的に予言できたことは大きい。また、インパクトファクターの高い雑誌、Physical Review Lettersに掲載されたことも今回の大きな業績である。
|
今後の研究の推進方策 |
機械学習ベースの画像認識について、事象検出効率や従来の手法に対してどれほど高速化が達成できたかをα崩壊事象を用い評価する。その後、また解析のボトルネック:ハイパー核の娘粒子で乾板中を数cm程度進むπ-粒子の追跡を高速化するべく、娘粒子自動追跡の顕微鏡システムを開発する。X線顕微鏡を用いて、これまでに検出されたダブルハイパー核で、光学顕微鏡では生成・崩壊の分岐点が一意に判断できない事象の分岐点を同定し、生成されたダブルハイパー核の核種同定を試みる。 理論面では、格子QCDからなるΞN相互作用が提供されたことは大きい。この相互作用を活用して、軽いΞハイパー核のエネルギー準位や反応の研究を進める予定である。
|