研究課題/領域番号 |
20H00157
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中澤 知洋 名古屋大学, 素粒子宇宙起源研究所, 准教授 (50342621)
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研究分担者 |
武田 伸一郎 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任助教 (80553718)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高エネルギー宇宙物理学 / MeVガンマ線 / 気球実験 |
研究実績の概要 |
宇宙観測でMeVガンマ線だけは観測感度が桁違いに劣っており、その改善は宇宙観測の最重要課題の一つである。このため世界中で半導体コン プトン望遠鏡(Semiconductor Compton Telescope : SCT)の開発が進んでいる。我々は広島大学やJAXA等とともに日本独自のSi/CdTe-SCTを開発 し、2016年に「 ひとみ」衛星に搭載してSCTとして世界で唯一軌道上の動作実績を得た。初期運用中に衛星が失われてしまったが、たった1.5 時間の観測で「かに星雲」の100 keV帯の偏光観測に成功するなど、開発の最先端にある。本研究では Si/CdTe-SCTを用いたコンパクトな「気球用ミニSi/CdTe-SCT」の将来の超長時間気球への適用を目指し、小型の試作機を用いてその観測性能を検証する試験観測を実施することを目標とする。 JAXAとの調整の結果、2021年度末に、当初予定より1年早く豪州での大気球実験にチャレンジすることが決まったため、急遽開発を繰り上げて研究を進めている。このためスケジュールがタイトであることに注意が必要である。本計画のキーテクノロジーは、Si/CdTe-SCT本体と、その視線方向を除いてほぼ全周を結晶シンチレータで囲むアクティブシールド部分であり、これにより「狭い視野コンプトンカメラ」を構成する。2020年度は、気球用ミニSi/CdTe-SCTとシールド部の製作を進めた。CdTeイメージャ2個が納品され、基礎的な試験を始めている。シールド部も必要な検出器の半数以上を制作終了した。その読み出し回路の改造も実施し動作試験により機能を確認した。2021年度早々にこれらを組み合わせた全系試験と耐圧容器内で実際に組み上げ動作させる総合動作試験に臨む予定であるが、その準備がほぼ予定通りに進んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時との予算状況の変化や、2020年度の途中で気球実験を当初予定より1年繰り上げることへ対応するために、検出器デザインを変更し最適化を進め、大幅にスケジュールを繰り上げて開発を進めている。計画変更時にはCOVID19対策で時間をとられたことから、打ち合わせなどが若干遅れてしまった。その「改定後の繰り上げスケジュール」と比較すると、一部の部材購入や各部部材の設計詳細化に若干の遅れが生じている。具体的には、予定していた半導体イメージャ2台の納品が年度ギリギリとなった。それでもなお、改定後のスケジュールに対する遅れであり、年度当初に掲げた目標はよりも進展して進んでいる。現在も、Si/CdTe半導体イメージャの組み上げや、シールド部の組み上げ・性能評価を進めている。上記のように、2020年度は全体設計と部材の確保が重要であり、当初予定より大幅に繰り上げたスケジュールに対して、予定していた要素をほぼそろえることができたことから、当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度末から2022年度初頭の気球実験に備えて、各検出器要素をそろえること、全系組み合わせ試験を実施すること、耐圧容器や構造設計・熱設計をしてこれを製作すること、電池の手配、輸送の手配などを通して、気球実験へ向けて準備を進めている。スケジュールはタイトであり、慎重な中にも迅速な対応が欠かせない。ただし、2021年度のCOVID19感染状況次第では、大気球実験そのものが1年延期される可能性があり、その場合でも1年後のフライトをきちんと実施できるよう、拙速はせず、 迅速でかつ着実な開発が必要である。このため現在開発中の検出器の機能は極限まで削り、多様な機能はあとで追加する方針で開発を進めている。しかし、開発スケジュールがタイトであることに変わりはなく、COVID19の影響などが我々自身の開発の遅延にもたらさないよう、注意深く開発を進める。
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