研究課題
宇宙観測でMeVガンマ線だけは観測感度が桁違いに劣っており、その改善は宇宙観測の最重要課題の一つである。このため世界中で半導体コン プトン望遠鏡(Semiconductor Compton Telescope : SCT)の開発が進んでいる。我々は広島大学やJAXA等とともに日本独自の「狭視野Si/CdTe-SCT」を開発し、2016年に「ひとみ」衛星にSGD検出器として搭載してSCTとして世界で唯一軌道上の動作実績を得た。初期運用中に衛星が失われ てしまったが、たった1.5 時間の観測で「かに星雲」の100 keV帯の偏光観測に成功するなど、開発の最先端にある。本研究では「気球用狭視 野Si/CdTe-SCT」の概念実証機「miniSGD」を開発し、将来の大気球や衛星による高感度MeV宇宙観測の実現へ向けてその性能を実証する。2022年度は放球を予定していたJAXAの豪州気球実験に向けて、夏までに熱真空試験、長期動作試験を実施して、装置をフライトレディーとし、気球のコマンドテレメトリーシステムとの噛み合わせ試験にも成功した。しかし、我々のフライトは11月に他の事情によりキャンセルされてしまった。そこで12月以降にバックアッププランとして「地上実験で究極性能を実証する」方向へシフトした。Si/CdTe半導体コンプトン望遠鏡としての性能の極限を求めるためには、コンプトン散乱と光電吸収の相互作用位置を3次元で精度良く決める必要がある。2 mm という特厚のCdTeイメージャを用いた我々のシステムではその相互作用位置の深さ情報を再構成するデータ解析の確立が必要である。詳細な実験により、その簡易的なロジックを迅速に構築し、Si/CdTeコンプトン望遠鏡として最高レベルのコンプトン再構成の角分解能を達成した。
2: おおむね順調に進展している
我々の実験装置は2023年の春に豪州での放球を予定していたJAXAの気球実験のサブ機器として採択され、そのための装置開発を精力的に進めた。観測装置の開発に続き、2022年度は気球実験用に耐圧容器の開発、低温真空試験での性能実証、放球から着陸までの運用手順の確立と実証、そして電池駆動での検出器のend-to-endの動作試験を実施した。8月上旬に気球ゴンドラとの構造噛み合わせ、9月上旬に名大の施設で低温・真空中で連続熱真空試験を実施し、10月には電池駆動での動作試験と気球のコマンドテレメトリーシステムとの噛み合わせ試験にも成功し、装置をフライトレディーとした。この中で7月には国際研究会で我々の装置の概念と開発の現状を報告もした。しかし11月にフライトは他の事情によりキャンセルされたため、12月以降は研究のバックアッププランである、「地上実験で究極性能を実証する」方向へシフトした。特に2022年度は、Si/CdTe半導体コンプトン望遠鏡としての性能の極限を追求した。半導体コンプトン望遠鏡ではエネルギー分解能が良いためコンプトン散乱角は一定の精度で得られるため、コンプトン散乱と光電吸収の相互作用位置を3次元で精度良く決めることが角分解能大きな影響を与える。時に本実験で採用した新型の 2 mm という特厚のCdTeイメージャを用いた我々のシステムでは、その相互作用位置の深さ情報を再構成するデータ解析の確立が必要である。詳細な実験と反動時計数を利用した「実効的な裏面照射」モードでのテータを得ることで、簡易的な深さ決定ロジックを迅速に構築し、Si/CdTeコンプトン望遠鏡として最高レベルのコンプトン再構成の角分解能を達成した。
Si/CdTe半導体コンプトン望遠鏡としての究極性能を達成できる目処が立ったことから、2023年度はこれをさらに精度を上げて世界最高のコンプトン再構成の角分解能を実証する。また、コンプトン再構成だけでは近未来のMeV天文学の感度要求に対応できないことから、より高い角分解能を実現する開発研究を行う。我々のminiSGD装置はコンプトン望遠鏡としては非常にコンパクトであるため、放射線源の強度の制約もあって、十分な光子統計を得ることは容易ではない。しかし、我々の装置は気球実験のために安定動作できることが特徴で、数百時間の連続動作は十分に可能であることが確認できた。これにより十分な統計を得られる目処が立った。これを受けて、さらなる実証実験を進め、「Si/CdTe半導体コンプトン望遠鏡としての究極性能」の実証を追求する。
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Proc. SPIE "Space Telescopes and Instrumentation 2022: Ultraviolet to Gamma Ray"
巻: 1218172 ページ: 14pp
10.1117/12.2628199