研究課題/領域番号 |
20H00162
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
小汐 由介 岡山大学, 自然科学学域, 准教授 (80292960)
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研究分担者 |
中島 康博 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (80792704)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超新星背景ニュートリノ / スーパーカミオカンデ / 中性子捕獲 / 素粒子・原子核反応 |
研究実績の概要 |
大質量の恒星はその一生の最後に超新星爆発を起こす。その際、爆発の99%以上のエネルギーはニュートリノによって宇宙空間にばらまかれる。宇宙に最初の星ができて以来、超新星爆発は約1秒に1回の頻度で絶えず起きており、その都度ニュートリノが宇宙にまき散らされていると考えられている。このニュートリノは超新星背景ニュートリノ(SRN)と呼ばれ、世界中で探索が進められているが、未だ発見には至っていない。世界最大のニュートリノ検出器スーパーカミオカンデ(SK)でSRNを発見するのが本研究の目的である。 2020年度の成果としてはしては、まず13トンの硫酸ガドリニウムをスーパーカミオカンデに導入したことである。ガドリニウムの導入により、SRN解析に対する背景事象を効果的に削減し、感度が劇的に向上する。導入は順調に行われ、約1ヶ月で完了した。導入後のデータから、期待通りの信号が確認でき、検出器も安定して稼働している。 本研究ではSKのデータ解析に加え、加速器を用いた素粒子・原子核反応の精密測定で、SRN発見に最も重要な大気ニュートリノによる背景事象の理解を進める。大気ニュートリノ反応の中でも、ニュートリノと水中の酸素原子核との中性カレント準弾性散乱(NCQE)と呼ばれる反応がSRNによる反応と全く区別がつかないため、この反応を精密に理解することが鍵となる。そこでNCQE 反応を、素性のよくわかったニュートリノビームを同じSK検出器で捉えるT2K実験で測定する。2020年度末からはT2K実験のデータ取得にも成功した。 さらにT2K実験における NCQE反応の精度を上げるために、ニュートリノビームの不定性を削減する NA61/SHINE実験と、酸素原子核を標的としたビーム実験を行う。前者では、我々が提案した実験が正式に採用され、2021年度に行うことが決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最大の成果は、新たにSK-Gdと名付けられたスーパーカミオカンデへの硫酸ガドリニウム導入の成功である。これなくしてSRNの発見はおぼつかない。代表者と分担者はガドリニウム導入とその後の初期データの確認、必要なソフトウェアの開発に主要な役割を果たした。一方で、予定していた中性子発生装置を用いた検出器較正が、新型コロナウィルス感染症の影響により主要メンバーである外国人研究者が来日できず延期になった。それでも別の装置を用いた様々な検出器較正で期待通りの信号が得られていることは確認でき、本研究の最初の関門を突破した。 またガドリニウム導入後のT2K実験におけるシミュレーション開発を主導し、年度末に取得した第一期データを様々な角度から分析した結果、データ取得に問題ないことを確認した。 NA61/SHINE 実験については、我々のグループが提案した陽子とT2K標的(炭素)とのハドロン反応により発生するK粒子測定実験が正式に認められ、2021年度中のデータ取得が決定した。この実験により、T2K実験のニュートリノフラックスの不定性の削減が期待できる。 中性子と酸素原子核との反応の測定実験については、実験の方針について外部研究者も交えて議論し、ある程度の方向性が固まった。今後、具体化を進めていける。 以上の成果は研究計画に記載したスケジュール通りに進んでいることから、本研究は概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
SK-Gd については、延期となった検出器較正を早急に行い、その結果を用いたシミュレーションプログラムのチューニングを直ちに行う。その上で、SRN探索の解析手法を確立する。また中性子捕獲手法を確立し、その捕獲効率を求めることも重要なテーマである。さらに取得したデータのクォリティをチェックし、検出器の安定性を評価する。 T2K実験については第一期データの詳細な解析を行い、NCQE解析の手法を確立する。また次のニュートリノビームに向けた準備、特にシミュレーションプログラムと解析ツールの開発を進める。 NA61/SHINE実験は、2021年度中に行う陽子とT2K標的(炭素)とのハドロン反応により発生するK粒子測定実験の準備を鋭意進める。データを取得後は、解析を進め、出来るだけ早急に結果を導出する。 原子核実験については、2020年度中に決定した方針に基づき、実験手法及びサイトを確定し、実験遂行に必要な準備を始める。
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