研究課題/領域番号 |
20H00165
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研究機関 | 長崎総合科学大学 |
研究代表者 |
大山 健 長崎総合科学大学, 工学研究科, 教授 (10749047)
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研究分担者 |
長名 保範 琉球大学, 工学部, 助教 (00532657)
郡司 卓 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (10451832)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高エネルギー原子核衝突 / 粒子検出器 / データ収集系 / FPGAアクセラレーション / ビッグデータ / ALICE / QGP / LHC |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、CERN-LHCのALICE実験における連続読み出し型GEM-TPCの実現に欠かせない、大規模FPGAを用いた前段データ処理システムにおけるデータ処理アルゴリズムを開発し、さらにその成果を将来の大規模物理実験において応用・発展させるための基礎をつくる事である。 研究開始初年度である2020年度は、先行研究(基盤B:17H02903)の成果の引き継ぎと、そこで判明した問題点の洗い出しから開始した。多数のデジタル・フィルタから成るTPCの前段データ処理アルゴリズムの中で特にFPGA資源を消費するものとして、クラスタリングがある。先行研究ではクラスタリングを他のフィルタと併せて前段処理FPGA(Intel Arria 10)に組み込む事を試みたが、FPGAのリソース不足のため不可能であると判明した。 そこで、本年度はHBM(High Bandwidth Memory)を搭載するXILINX社製FPGAアクセラレーション・ボード(Alveoシリーズ)を用い、FPGAアクセラレーション技術を適用して多チャンネル・クラスタリングのFPGA実装の実現に挑戦する事とし、その技術の確立を目指した[長名・大山]。FPGA一台で約8000チャンネル分のADCデータ(合計100Gbps)の同時処理を目指す。 一方、先行研究で開発したコモン・ノイズ処理フィルタ、ペデスタル除去フィルタ等のアルゴリズムは、前段FPGAに十分搭載可能という事が判明している。本年度はこれを現在大量生産中のFPGAボードに組み込むためにコード最適化と物理シミュレーションによる性能評価を開始した。 加えて、本計画では360台のFPGAボードを同時稼働させる予定であるが、そのための自動化された設定・制御・モニタリングのためのシステムが欠かせない。これらの開発とデバッグを進め、CERNで試運転と改良を行った[大山・郡司]。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は主にALICE TPCの高度化に伴うCRU FPGA(Arria 10)へのフィルタの実装完了に注力し、必要な開発をほぼ終えることができた。完成したファームウェアを現地CERNのALICE実験施設にて展開し、テスト運用を行う予定であったところ、新型コロナウィルスの蔓延防止措置により渡航を断念せざるを得ない事態となったが、幸い現地在住の研究協力者とリモートで連携する事により、基本的なテストを行うことが出来、概ね目的を達成することが出来た。 一方、クラスタリングアルゴリズムのAlveo(XILINX製最新FPGAアクセラレーションボード)への実装に関しても、分担研究者の長名がシミュレーションによる実装可能性の証明に成功したため、こちらも概ね順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はALICE GEM-TPCのデータ処理用前段FPGAに実装したアルゴリズムの現地における最終デバッグ、それらのアルゴリズムのシミュレーションによる性能評価の完了、及び設定・制御・モニタリングシステムの完成を目指す。特に2021年度は高度化したLHCとALICEの立ち上げの時期であり、現地に滞在しながらの綿密な調整作業が必要となるとみられる。 一方、Alveoへのクラスタリング実装の試みに関しては、琉球大学と長崎総合科学大学にテストセットアップを構築し、実際に模擬データをFPGAに流しこみクラスタリング処理を行うデモンストレーションを実施する。 特に、れらの開発においてはHLS(High Level Synthesis)の適用に挑戦し、C++を用いてアルゴリズムを記述する。同時に既にVHDLを用いて記述したアルゴリズムに関してもHLSにて記述した際のロジック使用効率や動作速度などの違いを調査する。最終的にはすべてのアルゴリズムをHLS化し、他の実験において再利用可能なシステムを構築することが本研究の目標の一つである。 これと関連し、本研究の目的の一つである将来計画への応用として、ALICEの次期検出器でとして現在開発中のFoCal(Forward Calorimeter)への本技術の適用を模索する。現在FoCalは検出器デザインの策定中であるが、データ読み出し用フロントエンドASIC以降のオンラインデータ処理及びトリガの生成において本技術を応用することを提案し、システムの詳細設計に入る予定である。
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