研究課題/領域番号 |
20H00165
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研究機関 | 長崎総合科学大学 |
研究代表者 |
大山 健 長崎総合科学大学, 工学研究科, 教授 (10749047)
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研究分担者 |
長名 保範 琉球大学, 工学部, 助教 (00532657)
郡司 卓 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (10451832)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高エネルギー原子核衝突 / 粒子検出器 / データ収集系 / FPGAアクセラレーション / ビッグデータ / ALICE / QGP / LHC |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、CERN-LHCのALICE実験における連続読み出し型GEM-TPCの実現に欠かせない、大規模FPGAを用いた前段データ処理システムを開発し、さらにその成果を将来の大規模物理実験において応用・発展させるための基礎をつくる事である。 2021年度は、(1) TPCのデータ処理アルゴリズムの前段FPGA(Arria 10)への実装・展開・試運転[大山・郡司]、(2) シミュレーションによるアルゴリズムの評価[大山]、(3) 多数FPGAの設定・制御・モニタリングシステムの開発[大山]、(4) XILINX Alveo U50 FPGAアクセラレーションボードをターゲットとしたクラスタリングアルゴリズムの実装テスト[長名・大山]、および (5) ALICEの次期検出器FoCalにおけるこれらの技術の応用[大山]、といった5項目に関して研究を推進した。 (1)~(3)は概ね完了し、ALICE実験施設内のデータ収集クラスタに開発したファームウェアを実装し、一連のデータ収集・制御・モニタリングのテスト行った。また、GEANT物理シミュレーションにより生成した模擬検出器データを用い、開発したアルゴリズムの多くが鉛-鉛中心衝突によりTPC内の粒子多重度が極端に多い場合でも破綻しない事を確認した。まだ確認できていないアルゴリズムに関しては今後引き続き調査を継続する。 (4)に関しては、HLS(High Level Synthesis)技術によってTPCのクラスタリングアルゴリズムを記述し、U50に搭載されたシリアル入力に対して100 Gbpsのリンク速度でデータを入力し即時処理する事が出来ることを確認した。 (5)として、FoCalのデータ収集・トリガ系において、本研究で開発している技術を適用するための基礎的情報収集および協力体制の構築に向けた海外関連機関との協議を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CERN現地実験施設に滞在し、TPCのデータ収集系の最終試運転等を行う予定であったが、2021年度も引き続き新型コロナウィルスの蔓延防止措置により渡航を断念せざるを得ない事態が多発した。幸い現地在住の研究協力者とリモートで連携する事により、試運転を無事行うことが出来たため、研究に大きな支障とはならなかった。 クラスタリングアルゴリズムのAlveo(XILINX製最新FPGAアクセラレーションボード)への実装に関しても、分担研究者の長名が基本的なデータ転送に成功したことから、こちらも概ね順調といえる。 FoCalへの参入と本研究の成果の応用に関しては、引き続き協議を行うことにより、読み出し系のデザインを確定していかなければならない。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はAlveoへのクラスタリング実装とFoCalへの応用に重点を移して研究を継続する。加えて、ビーム実験の開始と共にCERNの現地実験施設に2~3か月程度滞在し、開発した読み出しシステムを含めたALICEシステムの運転に参加し、不具合があればその修正・データ処理アルゴリズムのアップデートを行う。 Alveoへの実装の完成に向けて、2021年度より機器を拡充し、長崎総合科学大学にデータ処理系のテストセットアップを構築しつつある。次年度前半にはこれを完成させ、クラスタリング処理を行うデモンストレーションを実施する。このテストセットアップは、複数の高性能サーバPCとそれらに搭載する最新Alveo U55 FPGAボードから成り、次年度はさらにGPUを加える予定である。U55のシリアル入力部分(QSFP)には別のサーバPCに搭載された100 Gbpsイーサネット・インターフェースから光ファイバによりデータを入力する。さらに、FPGAにて前処理したデータをCPUを介することなく直接DMA転送によりGPUに転送し、二次データ処理を行う、ヘテロ型データ処理システムの構築にも挑戦する。 ALICEの次期検出器でとして現在開発中のFoCal(Forward Calorimeter)への本技術の適用に関して、引き続き共同体と協議することで、データ収集系とトリガ系のデザインを固める。特にFoCalの電磁カロリメータでは、シリコンパッド読み出しASICからビーム衝突に同期して得られるトリガ要素データを速やかに処理してシャワープロファイルを計算し、高エネルギーガンマ線や中性パイオンのトリガを生成しなければならない。この処理はTPCのクラスタリングよりもさらに複雑なものとなり、HLSの重要性が高まる。大規模FPGAで実現できるかをシミュレーション等を用いて評価する計画である。
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