研究課題/領域番号 |
20H00186
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
杉山 慎 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20421951)
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研究分担者 |
菅 浩伸 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (20294390)
古屋 正人 北海道大学, 理学研究院, 教授 (60313045)
青木 茂 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (80281583)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | カービング氷河 / パタゴニア / 湖 / 海洋 / 氷河末端消耗 / 南極 / 溢流氷河 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、2021年度もCOVID-19の影響を受けて、チリおよびアルゼンチンでの氷河観測が実施できない状況となった。そこで当初の計画を一部変更して、南極における野外観測を実施すると共に、人工衛星データを使った解析に力を入れた。その結果、南極のカービング氷河における重要な観測データが得られた他、既存のデータと衛星データの解析で論文出版と学会発表の成果が挙がった。 (1) 野外観測: 2021年12月から2022年1月にかけて、南極ラングホブデ氷河で熱水掘削を含む観測を実施して、カービング氷河の底面観測に成功した。当初計画とは異なる地域、異なる手法による観測であるが、氷河氷床と海洋の相互作用解明につながる重要なデータが得られたと考えている。このほか、パタゴニアでの氷河・氷河湖・海洋調査に向けて、観測機器の調査と準備を行った。特にマルチビームソナーを使った観測に関して、専門業者への観測委託の検討が進んだ。 (2) データ解析: 過去にチリ・グレイ氷河の前縁湖で測定した水温と流速データを解析して、氷河排水が氷河湖の水温季節変動に与える影響を明らかにした。また人工衛星データの解析によって、パタゴニア西部グレーベ湖で2020年に起きた急激な水位低下を発見した。詳しい解析の結果、この現象が近年では世界最大の氷河湖排水イベントであることが判明した。 (3) 論文出版・学会発表:グレイ湖で測定した通年の水温変化をNature Communications誌に出版した他、氷河湖排水イベントをCommunications Earth & Environment誌に投稿中。COVID-19の影響で海外における学会発表は困難となり、国内での学会で成果を発表した。 (4) 研究会合:10月にオスロ大学の研究者とオンラインでワークショップを開催した他、研究チームでの小規模な会合を適宜開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
プロジェクト開始と当時にCOVID-19の感染状況が悪化して、当初から計画していたパタゴニアでの氷河観測が実現できていない。そのような状況下で研究目的を達成するために、研究手法と研究対象地を一部変更して研究活動を進めている。具体的には、人工衛星データの解析により大きな力を入れた。また南極での観測機会を活かして、氷床沿岸部での氷河観測を実現した。以下に詳述する状況を総合的に判断して、計画より「やや遅れている」と判断する。 (1) 野外観測:海外渡航が困難な状況を受けて、チリとアルゼンチンでの調査を中止した。その代替策として南極地域観測隊に参加して、東南極ラングホブデ氷河で観測を行った。熱水掘削を含む各種活動の結果、氷河の底面流動と底面水圧に関するデータを得た。南極のカービング氷河における氷底観測は過去にほとんど例がなく、画期的なデータといえる。 (2) データ解析:過去の現地調査で得られた湖水温度、湖深分布、流動速度、気象などのデータを解析して、氷河と海洋・湖の相互作用に関していくつかの重要な成果が得られた。また人工衛星データを使って、氷河末端位置、氷厚、流動速度の解析を推進し、カービング氷河の末端消耗、Pio XI氷河の前進傾向とそのメカニズム、グレーベ湖の排水イベント、湖の水位変化が氷河変動と流動に与えるインパクト、等に重要な結果を得た。 (3) 論文出版・学会発表:パタゴニア全氷河の末端消耗量、氷河前縁湖の水温季節変動、棚氷底面の海洋循環と融解、Pio XI氷河の変動、氷河流出がフィヨルド環境に与える影響などについて、評価の高い国際学術誌に論文を出版した。また海外渡航が難しいため、国内学会を中心に成果の発表を行った。 (4) 研究会合:会合:研究プロジェクト内の小規模な会合に加えて、プロジェクト全体会合、海外の研究グループとのワークショップなどを実施した。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19の影響を受けて海外調査が困難な状況が続いているが、2022年4月の時点では、日本の出入国に関する状況が若干改善されつつある。状況を鑑みて、今後の研究活動に関して以下のような方策を検討している。 (1) 野外観測:2022年度は、11月以降の南半球夏シーズンにパタゴニアでの観測を検討する。日本および所属機関の渡航制限と、現地(チリまたはアルゼンチン)の状況を勘案して、実施の可否を慎重に判断する。2023年度以降の本格的調査、特にマルチビームソナーを使った観測につなげる予備的な現地観測を目指す。また、パタゴニア以外の地域のカービング氷河での観測も検討する。具体的には、グリーンランド、スバルバールのカービング氷河での観測によって、研究目的達成に資するデータが取得できる。 (2) 人工衛星データ解析:野外観測活動の制限を受けて、人工衛星データ解析により大きな力を入れる。まず2020年に発生したGreve湖の排水イベントに着目し、この湖に流入するカービング氷河の変動から、湖水面の変化が氷河変動に与える影響を解明する。また過去に撮影されたステレオペア衛星画像から標高モデルを作成して、1940年代まで遡った氷河変動(表面標高、末端位置、流動速度)を定量化する。 (3) その他の研究活動:氷河末端変動に関する数値モデルの検討を進め、末端消耗と流動の変化からカービング氷河の変動を再現する数値実験を目指す。また、インターバルカメラ、赤外線カメラ、津波測定、地震波測定など、新しい観測機器の開発を進める。 (4) 論文出版・学会発表:グレーベ湖の排水イベント、排水後の氷河変動に関する論文出版を行う。また、国内外の学会で発表を行い、パタゴニアに関する国際的研究コミュニティとの情報交換、国際共同研究の検討を行う。
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