研究課題/領域番号 |
20H00189
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
杉山 和正 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (40196762)
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研究分担者 |
吉朝 朗 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (00191536)
湯葢 邦夫 九州大学, 工学研究院, 学術研究員 (00302208)
川又 透 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (90638355)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | mineral / structure / X-ray diffraction / anomalous scattering / approximant / spinel / pentlandite / はやぶさ |
研究実績の概要 |
本研究は,最新鋭の散乱強度マッピング装置と波長選択性や偏光性を積極的に利用できる高輝度放射光X線源をドッキングすることによって,ブラッグピークの隙間空間に表現される鉱物の特異構造を解明することを目的とする.令和2年度は,合金の複雑構造の解明にデザインされている既設装置に,惑星活動の履歴を記録するケイ酸塩鉱物や燐酸塩鉱物の特異構造の解析に不可欠な散漫散乱や長周期構造の高分解能解析に有効なCu線源を導入した.そして準結晶に関連する分野では,Al-Mn-Co系において元素の秩序化配列にともなう新しい近似結晶相の構造を解明することができた.また硫化鉱物に関しては,放射光源を併用することによって,スピネル構造およびペントランダイト構造に記録される特異な元素秩序化とその温度依存性に関しての解析を進めることに成功した.とくに放射光異常散乱の研究成果は,令和3年度挿入する最新鋭の特異構造解析システムの設計との関連性が深く,現状のシステムの精度と実験的に改善できるポイントの精査を進める基礎データとなった.またペントランダイト構造から読み取れる鉱物の受けた温度履歴に関しては,令和3年度に”りゅうぐう(ハヤブサプロジェクト)”より回収された鉱物試料の解析に展開する計画である.本研究グループが令和2年度に発展させた方法論は,”りゅうくう”の生成環境を解明できる強力な解析方法であることは明らかであり,令和2年度の目標”生成環境が特異構造の相違点として観測可能かどうかの検証”は達成できた.また,鉄隕隕石から採取できるkamaciteおよびtaenite,急冷法で作製した Fe-Ni合金など様々な冷却条件で準備した合金の規則度を解明もおこなった.しかし予想に反して,現在のところ隕石に存在するFe-Ni系合金の秩序化配列は明瞭に観測できなかった.令和3年度は,研究されていない隕鉄合金に研究展開をしたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度に既設のXtaLABに追加導入したCu線源を駆使することによって,これまで見過ごしていた鉱物の特異構造を新規に発見することができた(pentagonite, Cs-stilbite, argyrodite, hopeite, Al-Mn-Co合金).さらに,X線異常散乱法を展開することによって,violariteおよびpentlanditeの遷移元素の秩序化機構を解明し,さらに遷移元素の秩序化が温度依存性を持つことを確定し,得られたあ硫化鉱物中の遷移元素の秩序化機構は,令和3年度入手できるハヤズサ2プロジェクトによって”りゅうぐう”から回収されるpentlanditeに応用展開することによって,”りゅうぐう”の生成環境を決定できることを明らかにしたことから,当初目的の,項目1「合金の複雑構造の解明にデザインされている既設装置に,惑星活動の履歴を記録するケイ酸塩鉱物や燐酸塩鉱物の特異構造の解析に不可欠な散漫散乱や長周期構造の高分解能解析に有効な Cu 線源の導入を行う」および項目2「実験室系で高温領域から冷却し作製した場合,天然のものとは異なる特異構造が存在する可能性を見出している鉱物を対象に,各種隕石や月試料に含まれている鉱物と実験室系で作製した鉱物の構造を比較検討することによって,生成環境が特異構造の相違点として観測可能かどうか検証する」は達成できたと判断した.しかし,隕石に記憶されている地球科学的現象を解明するために進展する計画であった,kamaciteおよびtaeniteの研究および超重力を施した鉱物の構造的研究に関しては,一定の研究進展は達成できたが,論文として出版可能なレベルの研究成果の取得には至らなかった.しかし,試料の準備や対応する試料の作製方法に関して,研究成果を考慮しながら進める計画であったので,総合して「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度の研究成果を踏まえて,令和3年度以降は,最新鋭の特異構造解析システムを完成させたい.現在,令和3年度の測定システム完成と令和3から4年度に解析システムの最終完成との計画であるが,本システムが完成できれば,鉱物試料に記録されている特異構造の解明をより効率的に実施できるめどがつけられると期待している.また,研究初年度(令和2年度)探索に成功した各種鉱物に記録されている特殊構造に関しては,まづその特殊構造を特定することからスタ―トし,最終年度までに特殊構造の実験的再現を念頭に研究展開をしたいと考える.初年度,その研究進展に少し支障をきたしているFe-Ni合金に関しては,合金系試料に関しては組成の調整を含めて試料の合成(シミュレーション)のめどはついている現状を踏まえて,天然試料にはこだわらず合成試料を中心に研究進展を図っている.
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