研究課題
本研究ではこれまで測定されてこなかった2つのレアアイソトープ(炭酸凝集同位体と17O異常)を日本列島で採集した石筍とトゥファに適用し,過去10数万年間の気温と降水現象を定量的に復元することにある。今年度は鹿児島県徳之島,新潟県糸魚川市において石筍とトゥファの調査を行った。採集した試料については,酸素・炭素安定同位体比,放射性炭素,U-Th同位体組成,炭酸凝集同位体などの測定に加え,X線CTスキャンを用いた3次元微細構造の観察を行った。その結果,徳之島で採集した石筍およびトゥファ,静岡県浜松市の石筍などで年代モデルを確立するとともに過去1ま万年間の降水量に関する記録を抽出することができた。また,高解像度測定のための膨大な数の試料作成を正確かつ迅速に行うため,マイクロミリングシステムを導入した。得られた研究成果のうち,1) 広島県神石高原町で採集した石筍の炭酸凝集同位体を用いて,過去1.8万年間の平均気温変化と降水の酸素同位体比の変化を復元した論文と, 2) 新潟県糸魚川市の最終氷期の石筍の分析結果から,日本海表層での塩分濃度低下を示した論文を,それぞれ国際誌に公表した。2つの論文は先行研究には見られない斬新な内容を含んでいる。さらに,同位体測定のためのガス前処理測定に関する特許を2件登録した。なお,17O異常の測定システムについてはレビュー論文を国内誌に公表するとともに,基礎実験を行い,同位体種固有のピーク定量について改善の予知があることがわかった。今後は最適な分析条件を明らかにし,測定誤差を現在の1/5程度に縮小する必要がある。問題点は明らかであり,それらを解決することで来年度中の完成が見込まれる。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍で一部の予定されていた調査と分析が出来なかったが,炭酸凝集同位体温度計の分析などに大きな進展が見られ,順調に成果が得られている。国際誌に公表した2編の論文は,過去1.8万年間の気温変化を定量的に示した点,最終氷期の日本海の海洋構造が石筍酸素同位体比に反映されること示した点で,先行研究には見られない斬新な内容を含んでいる。また,設備備品で導入したマイクロミリングシステムが順調に稼働し,予想以上に分析作業の効率が向上した。
昨年度から継続して調査する鹿児島県徳之島と新潟県糸魚川の石筍とトゥファに加え,高知県土佐山田町(狩野・柏木・奥村)および奈良県天川村(堀)の石筍についての本格的な調査に入る。これらの石筍については台湾大学の沈教授に年代測定を依頼する。また,酸素・炭素安定同位体(狩野・奥村・坂井),炭酸凝集同位体(仙田)および微量元素(堀)を測定し,着実に古気候指標となるデータを集積する。また,今年度から参加する齊藤が石筍に含まれる有機成分を解析し,新たな古気候プロキシの開発を進める。17O異常の測定システムについては赤外線レーザー分光計をベースに開発し,坂井と狩野が基礎実験を継続して,本年度中の完成を目指す。ここでは,13C17O16Oという凝集同位体種を用いた新たな温度計の開発を目指す。そのために最適波長領域のレーザー光源などを購入する必要がある。また,古気候的内容と同位体分析に関する内容についての成果は,順次,学会発表と論文により公表する。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件) 産業財産権 (2件) (うち外国 1件)
Quaternary Science Reviews
巻: 253 ページ: 106746~106746
10.1016/j.quascirev.2020.106746
Progress in Earth and Planetary Science
巻: 8 ページ: 1~15
10.1186/s40645-021-00409-8
ぶんせき
巻: 2021(2) ページ: 52~56
Global and Planetary Change
巻: 191 ページ: 103194~103194
10.1016/j.gloplacha.2020.103194
http://www-gbs.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~kano/paleoc.html