研究課題/領域番号 |
20H00191
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
狩野 彰宏 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60231263)
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研究分担者 |
堀 真子 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (00749963)
仙田 量子 九州大学, 比較社会文化研究院, 准教授 (50377991)
坂井 三郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(生物地球化学センター), 主任研究員 (90359175)
柏木 健司 富山大学, 学術研究部理学系, 准教授 (90422625)
奥村 知世 高知大学, 海洋コア総合研究センター, 准教授 (90750000)
齊藤 諒介 山口大学, 大学院創成科学研究科, 助教 (90772385)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 石筍 / トゥファ / 炭酸凝集同位体 / 古気候 / 第四紀 |
研究実績の概要 |
本研究ではこれまで測定されてこなかった2つのレアアイソトープ(炭酸凝集同位体と17O異常)を日本列島で採集した石筍とトゥファに適用し,過去10数万年間の気温と降水現象を定量的に復元することにある。 今年度は鹿児島県徳之島,熊本県球磨村,福岡県北九州市などで石筍とトゥファの調査を行った。採集した試料については,酸素・炭素安定同位体比,炭酸凝集同位体などの測定に加え,X線CTスキャンを用いた3次元微細構造の観察を行った。また,いくつかの石筍試料についてはウランートリウム法による年代測定を行い,良好な試料を選別した。 信頼度が高い年代モデルは三重県大台町と岐阜県郡上市の石筍で得られた。そこで,これらの試料を用いて,高解像度の同位体分析を行い,気温と降水量に関する情報を抽出することができた。また,赤外線レーザー分光型を用いた研究では基礎実験を繰り返し,微量の炭酸塩試料から酸素・炭素安定同位体に加え,凝集同位体と17O組成を0.1パーミルの精度で測定できることがわかった。 さらに,石筍古気候学で重要な情報になる雨水の同位体分析も行った。中国やヨーロッパで見られる降水酸素同位体の量的効果(強い雨ほど酸素同位体比が低くなるという傾向)は新潟県糸魚川市や鹿児島県名瀬市では確認されたが,岐阜県大垣市や三重県大紀町では認められなかった。 得られた研究成果のうち,1) 日本国内における雨水同位体の量的効果についてのシミュレーション計算の結果と,2) 岐阜県郡上市の石筍の炭酸凝集同位体を用いた,過去6.4万年間の平均気温変化と降水の酸素同位体比の復元結果を国際誌に公表することができた。 また,測定試料を温泉成炭酸塩堆積物やメタン湧水からの沈殿物にも拡張した。北海道の白亜系メタン湧水沈殿物についてはメタン細菌の関与を証明することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は石筍とトゥファを用いた日本列島での古気候解析であり,その点において岐阜県郡上市の石筍について公表した論文では,従来の分析方法に加えて炭酸凝集同位体を併用することで,石筍に保存される気温と降水量の情報を最大限に復元できたと評価できる。また,雨水酸素同位体に関する論文では,雨の降り方と雨水酸素同位体比の関係を評価し,量的効果が明確に現れる場所と現れない場所があることがわかった。 また,赤外線レーザー分光計を用いた分析方法でも大きな進展があった。今年度開発した装置では0.05ミリグラムの炭酸塩粉末から酸素・炭素同位体比に加え炭酸凝集同位体と17O異常も小さい誤差で測定できるようになった。 トゥファの研究では,鹿児島県徳之島のサイトにおいて継続的な調査を積み上げている。この野外調査で積み上げたデータと,トゥファ試料の分析結果を来年度には公表できる準備が整いつつある。石筍の研究では年代モデルが確立している三重県大台町の試料で大きな進展があった。ここでは雨水酸素同位体比の量的効果が無視できるレベルにあり,酸素同位体から完新世の温度変化を見積もった。この復元温度は炭酸凝集同位体が示す温度とも整合的であることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は群馬県下井田町や静岡県浜松市で採集した石筍試料に加え,鹿児島県徳之島のトゥファ試料についてレアアイソトープを含めた高解像度の同位体分析を進める。また,三重県大台町の試料については微量元素を測定し,前年度に得た炭素同位体の測定結果とともに吟味し,降水量情報の抽出につとめる。 赤外線レーザー分光法については,装置システムの高度化を進めるとともに,凝集同位体の測定を多数の試料について行い,完新世の温度変化について議論していく。 鹿児島県徳之島のトゥファと三重県大台町の石筍についての分析結果を速やかにまとめ,国際誌に複数の論文を投稿する。また,他の地点についても,研究成果を取りまとめ,学会や論文として公表していく。
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