研究課題
火星における液体の水の存否、生命生存可能性は長年の謎である。本研究では、これに答える鍵が、火星斜面上に出現・消失を繰り返す暗い筋模様(Recurring Slope Lineae: RSL)にあると考える。RSLは地下凍土層の季節的融解によって形成されている可能性があるが、周回観測のみではその成因を特定できない。本研究では、乾燥寒冷なモンゴル国ゴビ・アルタイ地域に見つかるRSLの地球アナログに着目し、調査・観測を行う。地球RSLの地質調査と現地無人観測ステーションによる長期観測、機械学習による地形パターン認識により、1)RSL形成メカニズムの解明、2)RSL付近の生態系推定、3)水の活動を伴う火星RSLの判定・探索を行う。初年度は、新型コロナウィルスによる海外調査の制限から、当初の野外調査に関する計画を変更し、研究活動を行った。調査地域の国際共同研究者に依頼し、調査地域の調査、サンプリングを行ってもらったため、計画に致命的な影響はでていない。1)RSL形成メカニズムの解明については、無人観測ステーションのシステム設計と開発を行った。日本国内の類似野外環境でステーションを設置し、実地テストをくり返すことでノウハウを蓄積した。また、土壌試料や地下水の化学組成から、水の供給プロセスを明らかにすることを目的とし、土壌中での地下水からの鉱物沈殿実験を行った。国際共同研究者が得た乾燥域の湖の水質季節変化データを再現するモデルを構築し、この知見を氷衛星や初期火星の水質復元へと適応し、高精度の水質復元を可能にした。2)RSL付近の生態系推定については、国際共同研究者の調査により採取・輸送された土壌サンプルからDNA抽出およびシーケンス解析を行った。3)水の活動を伴う火星RSLの判定・探索については、リモートセンシングデータの収集・解析を進め、機械学習に用いるためのカテゴライズを完了した。
2: おおむね順調に進展している
現地調査については、新型コロナの影響により実施が見送られたが、国際共同研究者の協力により、継続的なサンプリングやモニタリングを行うことができた。そのため、致命的な遅れはなく、研究を順調に進めることができている。本年度は、観測ステーションのシステムモデルの設計を完了した他、共同研究者が取得した乾燥域の湖の水質季節変化を説明する水質モデルを構築することができた。また、構築したモデルを用いて、高精度の初期火星水環境を実現する土台となる知見の獲得を行うことができた。また、火星表面画像の機械学習については、膨大な量の画像データの収集とカテゴライズを終了し、これを使った任意画像の分類のステージに計画通り進むことができた。以上により、目標とする研究内容を順調に達成しつつあると言える。
次年度においても、新型コロナの影響により現地調査は制限されることが予想される。そのため、初年度と同様に国際共同研究者による継続的なモニタリングとサンプリング、さらには観測ステーションの設置を依頼し、研究の遅延が生じないようにする。水質復元については、従来の湖の水質季節変化のモデル化に、冬季の凍結時の水質変化も合わせてモデル化できるように発展させる。凍結時の水質変化は、初期火星のみならず、氷天体の水質復元にも有用である。室内実験では、RSLの形成における塩析出の役割、表層流出現の物理過程に着目し、これを明らかにする。機械学習については、RSLに加え、地下氷の崩壊で形成したと考えられるカオス地形にも着目し、カオス地形の成因別分類を行うニューラルネットワークを構築する。構築したニューラルネットワークを用いて、火星上のカオスの分類を行う。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 15件、 招待講演 3件)
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