研究課題
2021年度の研究では、これまでの研究により3Heが高濃度で含まれることがわかっている古生代ペルム紀および中生代三畳紀の深海底堆積岩(層状チャート)試料を確保し、分析に用いる試料を作成した。具体的には、岐阜県坂祝町の三畳系チャートを中心に試料採取を進めた。採取したチャート試料の一部については、フッ化水素酸法で放散虫およびコノドント化石を抽出し、属種の同定および堆積年代の決定を進めた。採取した試料の一部は、3He濃度および3He/4He比を分析し、宇宙塵フラックスの時代変化を見積もる研究を進めた。試料からのHe抽出は、バルク試料の加熱法で行い、測定は東京大学大気海洋研究所のHelix SFTを用いた。また本年度は、チャート試料に含まれる地球外3Heのホスト鉱物を濃集させたヘリウム同位体分析を行うため、主に採取した三畳系チャート試料を対象として、試料の酸・アルカリ溶解実験を同時並行で行った。実験では酸・アルカリ溶液処理を行った16試料について3He、4Heの含有量及びヘリウム同位体比を測定した。その結果、強アルカリ溶液を用いて分析試料を前処理することにより、従来のバルク分析に比べて、地球外3Heを最大で10倍程度濃集させることができた。今後はこの手法を中古生代層状チャート試料に用いることで、より広い時代範囲の地球外3Heフラックスの変動を高精度で復元することが可能になる。また、2021年度は予察的に三畳紀試料に対してCr同位体分析の化学処理から分析までを行なっており、表面電離型質量分析計(TIMS)を使用してCr同位体分析を進めた。現在は、三畳紀岩石の比較対象となる隕石試料についてのCr同位体比に関するデータ収集を、同時並行的に進めている。
2: おおむね順調に進展している
2021年度の研究では、研究試料の確保に関してはコロナ禍により制限があったものの、美濃帯の三畳系試料について、一定数の試料採取を進めることができた。しかし、2021年度の研究で予定してた兵庫県丹波帯の下部~中部ペルム系チャートの採取については、外出制限の影響もあり、試料を確保することができなかったため、来年度の研究で試料採取を進める予定である。 このようにコロナ禍の影響により研究計画がやや遅れているが、3He濃度および3He/4He比の分析に関しては、バルク試料の加熱法による測定を東京大学の希ガス分析装置を用いて予定通りに進めることができた。研究実績の概要で述べたように、試料の酸・アルカリ分解により主にシリカを取り除いた試料を分析することで、放射壊変起源の成分を分離し、分析精度を向上させることが可能になった。年度の後半は分析機器の要である真空加熱炉が故障し、分析の中断を余儀なくされたものの、従来のバルク分析に比べて、堆積岩中の地球外3Heを程度濃集させ技術を発展させることができた成果は大きいと考える。そのため、全体の計画の進捗状況としては「おおむね順調に進展している」と判断した。
2021年度の研究では、三畳紀の層状チャート試料を化学処理することにより、従来より高い精度でヘリウム同位体を分析する方法を見出した。2022年度も引き続き、分析精度の向上を目指した実験に取り組む予定である。また2022年度の研究では、三畳紀の試料に加えて、ペルム紀およびジュラ紀の付加体チャート試料を確保し、より広い範囲で分析に用いる試料を作成する予定である。具体的には 、昨年度の研究で採取できなかった丹波帯のペルム系チャートを採取する予定である。採取したチャート試料のうち、正確な年代が決まっていないものに関しては、放散虫化石およびコノドント化石を抽出し、属種の同定および堆積年代を明らかにする。微化石の処理には多大な時間を要するため、技術職員を雇用して効率的に研究を進めるように取り組む予定である。He同位体分析については、年代決定をしたペルム系試料を中心に3He濃度および3He/4He比を分析し、宇宙塵フラックスを見積もる予定である。また2022年度は堆積岩試料のCr同位体分析も本格的にスタートする。始原的隕石および分化隕石は、質量非依存のε54Cr同位体異常を示すことが知られており、堆積岩のCr同位体分析から、含まれる地球外物質の起源となる母天体のタイプ(分化隕石、普通コンドライト、炭素質コンドライトなど)を区別することが可能である。2021年度は予察的に三畳紀試料に対してCr同位体分析の化学処理から分析までを行なっており、2022年度も表面電離型質量分析計(TIMS)を使用してCr同位体分析を進める。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 7件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件)
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