研究課題
本研究の目的は「太陽系始原物質は共通した局所加熱イベントにより生成、氷や有機物とともに母天体として集積、隕石母天体は散乱により内側の小惑星帯へと移動した」という作業仮説を検証するために、高温物質の再現実験、再現物の水質変成実験、太陽系始原物質の分析、理論的考察により作業仮説を行い、太陽系始原物質形成・進化の統一モデルを構築することである。研究実施計画のうち、当該年度(繰越年度を含む)で到達された主な成果は以下の通りである。コンドリュール、マトリクスの同時生成プロセスの解明:始原的炭素質コンドライト隕石マトリクスの起源物質と考えられる非晶質ケイ酸塩微粒子の再現実験およびコンドリュール生成との関連を指摘した論文(Matsuno et al. 2021)、マトリクスの再現に関連した非晶質ケイ酸塩の水質変成プロセスの特質を明らかにした論文(Igami et al. 2021)を発表した。炭素質コンドライト母天体の生成領域の特定:炭素質コンドライト隕石(CM)中にCO2に富む流体を初めて見出し、この隕石が木星軌道の外側の領域で生成されたことを指摘した論文(Tsuchiyama et al. 2021)、太陽風の打ち込みによる水の生成が炭素質コンドライトでも起こっていることを指摘した論文(Nakauchi et al. 2021)を発表した。はやぶさ2サンプル分析への応用:赤外線CTとX線CTを組み合わせたはやぶさサンプルおよび隕石への応用(Dionnet et al. 2020)、EBSDを用いた鉱物同定の隕石への応用(Ono et al., 2021)に関する論文を発表するとともに、はやぶさ2サンプル分析の準備として、ナノX線CTに関しての新たな手法開発を行い、想定されている炭素質コンドライト隕石(CM, CI)を用いたリハーサル分析を行った(学会発表多数)。
2: おおむね順調に進展している
当該年度(繰越年度を含む)は新型コロナパンデミックのため、予定していたいくつかの実験(とくに高温物質の再現実験、再現物の水質変成実験)が行えなかった。これにより一部の研究、とくに誘導高温プラズマ装置を用いた、太陽系始原物質(炭素質コンドライトや彗星塵)の主要構成物である高温物質(コンドリュールやGEMS/GEMS様非晶質珪酸塩および珪酸塩微結晶からなるマトリクス)の同時再現実験や、これらの再現実験生成物を用いた水質変成実験は行うことができなかった。一方で、これまでの実験結果を用いた論文発表を行うことにより、研究目的達成のための下地を構築することができた。太陽系始原物質(彗星塵、隕石)について、主としてナノX線CTを用いた分析による研究は大きく進んだ。とくに、CO2に富む流体の発見と隕石母天体の小惑星帯への移動に関する論文を発表することができた。また、はやぶさ2サンプル分析のためのナノX線CTを用いた一連の手法の技術開発、さらにはやぶさ2サンプル模擬物質を用いたリハーサル分析を成功裏に行うことができた。
当該年度(繰越年度を含む)に、新型コロナパンデミックのため行えなかった実験(とくに高温物質の再現実験、再現物の水質変成実験)を行ない、当初予定していた研究実施計画を進めるとともに、理論的な研究も進める。はやぶさ2サンプル(リュウグウ物質)は複雑な組織をもち、その構成物も多様性に富んでいる。これらを解明するために、系統的な分析をさらに進めるとともに、比較のためにCIなどの隕石も同様の手法で分析を進め、リュウグウ物質と地球上変質前のCI隕石との差異を解明する。これにより、太陽系始原物質として最も重要なものの一つであるCIグループおよびその関連物質の位置付けを明らかにする。また、CI, CM以外の炭素質コンドライト隕石からも流体の発見を目指し、これらの隕石の生成領域を明らかにする。
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件)
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