研究課題/領域番号 |
20H00218
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
久保田 祐信 九州大学, カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所, 教授 (50284534)
|
研究分担者 |
駒崎 慎一 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (70315646)
ステイコフ アレキサンダー 九州大学, カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所, 准教授 (80613231)
薦田 亮介 福岡大学, 工学部, 助教 (90801308)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 水素 / クリープ / スモールパンチクリープ試験 / 中空試験片 / 荷重/応力変換算式 / 転位 / DFT / 分子動力学 |
研究実績の概要 |
A1. 試験片温度分布の均一化の達成:水素中で試験片を600℃に安全に加熱するために特殊な加熱方式を採用しており,均一な温度分布については研究開発要素を含む.各種対策の結果,JISのクリープ試験規格の温度範囲を達成した.A2. 簡易水素中クリープ試験方法の開発:将来的にはより簡便な水素中クリープ試験方法が求められることへの対応として,中空試験片の高温水素中クリープ試験片の応用を検討した.その結果,中実試験片と同様の傾向を得た.A3. SUS310S鋼および純鉄の水素中クリープ試験:水素中クリープ試験を実施した. B1.高温水素中スモールパンチ(SP)クリープ試験装置を用いて,SUS304鋼の高温水素ガス中(600℃,012 MP)でのクリープ変形・破壊特性を計測・評価した.その結果,水素ガス雰囲気中のSPクリープ破断寿命は不活性ガス(アルゴン,窒素)雰囲気中に比べ減少することが明らかとなった.この結果は,研究代表者らの単軸クリープ試験と定性的に良く一致した.加えて,最小変位速度到達時の変位に基づいたSP荷重の応力への変換についても検討した.その結果,水素ガス雰囲気中のSPクリープ破断データも比較的良好に単軸クリープ破断データへ変換できることが示された. C1. 低温・高温での水素と転位の相互作用を,古典的力学的方法と量子力学的方法を複合した理論的方法で検討した.2400原子を扱い,水素と転位含み,300Kと800Kで計算した.その結果,水素と格子欠陥の相互作用に対する温度の影響を明らかにした.低温では水素は転位のそばに低移動度でトラップされる.高温では転位を抜け出して格子間に入る.転位の移動度は温度によって大きく変わらない.DFT計算では温度の影響を直接的に評価できないが,拡散係数計算により調べることができる.この計算は次年度も継続して行う.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
A. 新しく導入した試験装置で水素中クリープ試験をクリープ試験規格に沿って実施できるように精度を検証することができた.このことは今後,学術的にはデータの整合性の検討に,工業的には設計に使用できる信頼性の高いデータを提供するために非常に重要である.中空試験片を用いて行ったクリープ試験には例がなく,この試験により水素の影響評価ができる見通しが立ったことは,将来的には高温水素ガス容器を使用しなくてもクリープ特性に及ぼす水素の影響を評価できること,より安全に実験が実施できること,高圧水素ガスを用いたクリープ試験が簡便な装置で可能になることなど,さらなる研究開発の道を拓く一歩となった.長期クリープ試験に向けて,負荷応力をいくらにするか決定することは重要である.その検討材料となる短寿命のデータを取得できた. B. 標準の単軸クリープ試験結果と同様,高温水素ガス雰囲気中のSPクリープ破断寿命が不活性ガス雰囲気中の寿命よりも短くなることが明らかとなった.加えて,最小変位速度到達時の変位に基づいてSP荷重を応力に変換したところ,SPクリープ破断データを良好に単軸クリープ破断データへ対応付けられることがわかった.得られた研究成果は,高温水素ガス雰囲気中のクリープ計測・特性評価のみならず,先進高温水素機器・構造物の健全性評価や余寿命評価,耐高温水素特性に優れた新材料の設計・開発への本SP試験法の有用性を示唆していた. C. 分子動力学によって長時間の転位の移動度に関するシミュレーションを完遂した.水素の移動度を異なる温度で評価した.DFT計算も実施し,転位周りの水素のポテンシャルエネルギーマップを作成した.以上の進捗は計画以上とも言え,水素の影響の理解は計画以上に進んでいる.
|
今後の研究の推進方策 |
A. 2022年度は長期クリープ試験と中空試験片を用いたクリープ試験を実施する.純鉄ではSUS304鋼で生じたような破壊形態の遷移は起きておらず,今のところアルゴン中でも水素中でもディンプル破面を呈している.このことはメカニズム解明にと他非常な重要な事実であり,すなわち,水素は基本的なクリープ変形機構を変えずに加速させていることの示唆である.ただし,クリープ変形機構は負荷応力によって変化するために,より長寿命側での破壊を観察する.SUS310Sでは実用的に重要なデータとなる高温での降伏応力程度の応力でのデータ取得を行う.加えて,クリープ寿命のばらつきの範囲と水素の影響に関して検討を実施する.中空試験片の適用性について,検討を進める. B. 2021年度に引き続き,供試材としてSUS304鋼を用いる.試験条件(温度,荷重,水素ガス濃度)を系統的に変え,高温水素中SPクリープデータをさらに拡充するとともに,不活性ガス雰囲気中での変形・破壊特性との相違を詳細に調査する.また,SPクリープ試験結果と標準単軸クリープ試験結果(研究代表者の試験結果)との相関についてもさらに議論を進める.加えて,SPクリープ試験後の試験片のミクロ組織解析や水素昇温脱離分析を行い,高温水素中のクリープ変形・破壊メカニズムを明らかにする. C. Transition state geometryと水素移動度の活性化障壁を鋼中と転位中について計算する.水素の移動度についてFrequency calculationsを鋼中と転位中で計算する.鋼中と転位中の水素拡散係数を300 Kと800Kで計算するモンテカルロシミュレーションを転位の移動について行う.
|