研究課題/領域番号 |
20H00223
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
田川 義之 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70700011)
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研究分担者 |
安藤 景太 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (30639018)
山中 晃徳 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50542198)
長津 雄一郎 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60372538)
田中 あかね 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80418673)
武藤 真和 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30840615)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マイクロジェット / 粘弾性流体 / レオロジー計測 / 無針注射 / 高粘度ジェット |
研究実績の概要 |
本研究では,衝撃力を利用した超音速・高粘度マイクロ液体ジェット生成法(代表者の開発技術)に基づき,ジェットの伸長・分裂・衝突という医学・工学応用に不可欠な各要素の物理機構解明・能動制御を達成するため,次世代製造プロセスにとって需要の高い粘弾性液体ジェットに焦点を絞り,学術的に未解明な特徴的挙動を解明に取り組み続けている. 粘弾性マイクロ液体ジェットの大伸張プロセスの解明・制御のために,ジェットが大きく伸長した後,分離せずに出戻る新現象に着目し,粘弾性マイクロ液体ジェットの分離・マイクロ液滴形成プロセスの解明・制御のため,粘弾性流体の液糸の分離過程を実験調査した.ジェット分離位置・時間を測定した結果,粘弾性マイクロジェットでは分離に至るまでに顕著な伸張効果が確認され,可視光カメラの解像限界(500 nm)以下の液糸が数秒間も持続し,液滴を保持・合体させる現象が見られた. 分担者(長津)所有のレオメータによりレオロジー特性の測定を行い,粘弾性特性が分離過程に与える影響を調査した.さらに,マイクロジェット先端から分離した液滴直径がマイクロサイズの場合,固体壁に衝突した液滴が従来理論に反して飛散しない現象を発見したがこれには,従来理論が立脚する連続体仮定が適用できないため,新たな物理描像に基づく理論として実験結果に基づく液滴飛散理論を構築した上で,混相数値計算を援用し,液滴拡大制御/飛散抑制を試みた. そして,以上の知見を踏まえ,次世代製造プロセス実現に向けた学術課題として無針注射器による生体組織への貫入挙動モデルを完成させた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
マイクロジェットジェットが出戻る現象について,粘弾性流体の粘弾性特性が分離過程に与える影響を実験的に調査し,物理モデルによるジェットの特異挙動の説明に成功した.本件に関して特許申請を検討中である.また,粘弾性マイクロ液滴衝突・塗布現象解明に取り組み,粘弾性流体(動物血清)の衝突実験を行なった.微小変形下でのレオロジー特性(微小振幅振動粘弾性特性)が同じにも関わらず衝突挙動が異なる結果が得られた.液滴衝突時には大変形下での粘弾性特性が重要であることを示唆しており,大振幅振動(LAOS)粘弾性測定を行い,その結果と衝突挙動との相関を調べた. さらに,軟材料衝突時の応力を計測するシステムを新規に構築することに成功し(Yokoyama et al., Opt. Laser Eng., 2023),当初計画以上の成果を得た. また上記と別の重要課題として,液滴直径がマイクロサイズの場合,液滴が従来理論 (Riboux et al., 2014, Phys. Rev. Lett.)に反して飛散しない現象を発見した.この原因は,高速かつ微小な液滴が平板上で拡がる際に,液滴下 の空気薄膜厚さが70 nm以下となり,気体分子の平均自由行程を下回る(クヌッセン数 が1以上となる)ため従来理論が立脚する連続体仮定が適用できることが検証された. そこで本課題では,空気薄膜厚さをナノスケール計測(TIR, Yukisada, Tagawa et al., 2018, Langmuir)し,実験結果に基づき液滴飛散理論を構築した.さらに混相数値計算(Kondo & Ando, 2016, Phys. Fluids)を援用し,液滴拡大制御/飛散抑制を試みた.上記を活用したマイクロジェット伸張衝突制御と次世代製造プロセスへの展開可能性を調査した. 以上のように研究は当初の計画以上に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
これまで研究の当初計画に沿って現象観察実験,数理モデル構築,制御法の確立をステップを踏み確実な実績を具現化してきたが,今後は応用への展開の最終段階とし3Dプリント印刷への適用可能性の検証を試みる. 本液体ジェットが溶融樹脂を用いた3Dプリンタに適用可能か検証する.溶融樹脂は温度低下による変性が予測される.そこで材料工学者(山中) による変性を考慮した数値計算(Tsuyuki, Yamanaka et al., 2018, Sci. Rep.)を行い,飛翔中液滴の変性による液体ジェット分離過程の変化を明らかにする.この実験結果を非定常に変化する動的We数によって整理し,変性の影響を含めたモデルを再構築する. 代表者(田川)は研究の総括として全テーマを 俯瞰し,主に実験全般を担当する.分担者(田中)は生体試料の提供および解析を行う.分担者(安藤・山中)はそれぞれ流体・固体の数値解析を担当する.分担者(長津)は レオロジー計測を担当する.本学学生17名の協力を得る.実機開発においては既に代表者が産業界と連携し ている.海外研究者との連携体制 (田川 -Prof. Lohse ,安藤 -Prof. Colonius,長津-Prof. De Wit)を整え ているが,研究進捗が遅れた場合には,連携実績のある流体実験専門家 (Prof. Yoda, Prof. Ohl)および 非ニ ュートン流体数値解析の専門家 (Prof. Johnsen)の助言を受ける. 以上により,得られた成果については国際・国内学会及び学術論文として積極的に発表する.
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