本研究は血糖,コレステロールなどの血中成分を,指や口唇でセンサ部を触れただけで,非侵襲で精密に分析を行う装置を開発することを目的とする.そのために高精度測定が期待される中赤外分光法を利用するが,中赤外光の体内への微小な侵入深さおよび微弱な光強度という問題点が大きな障壁となる.そこで,侵入深さが数ミクロンであった従来の減衰全反射(ATR)分光法に替えて,生体試料に垂直に光を入射し,光吸収により発生する熱または音響波を検出する新手法について検討する.この手法では光の侵入深さを20ミクロン程度と大きくとることができ,高感度化が期待される.熱検出には,熱による屈折率変化を近赤外プローブレーザ光で検出する光熱偏向法を用いるが,今年度においては従来,利用していたZnSプリズムから赤外光透過ガラスプリズムに変更することについて検討した.ガラスプリズムはプレスモールドによる加工が可能なため,より安価で将来的には大量生産も可能となる.評価の結果,ZnSプリズムとほぼ同等の特性が得られることが確認され,今後はガラス製のものへ移行することとした.また光音響法においては,圧電トランスデューサを用いて超音波を検出する方法について検討した.あらたにヒトの指間膜を対象とし,レーザ光の変調周波数を走査することにより試料の厚さ方向に定在波を生じさせ,信号強度を増強することに成功した.そして血糖値との相関について検討を行った結果,測定位置を固定すれば比較的良好な相関性を得ることができることがわかった.
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