研究課題/領域番号 |
20H00240
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
徳光 永輔 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (10197882)
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研究分担者 |
藤村 紀文 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50199361)
太田 裕之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 研究グループ長 (70356640)
森田 行則 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 研究グループ長 (60358190)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 強誘電体 / 分極ダイナミクス / 急峻スロープトランジスタ / 負性容量 |
研究実績の概要 |
本研究は、3つの研究機関が、フル分極(WP1:徳光)、マイクロ分極(WP2:太田・森田)、分極相互作用(WP3:藤村)という異なる視点から協力して研究を遂行した。 WP1では、強誘電体飽和ループを利用したフル分極のダイナミクスを明らかにし、酸化物半導体をチャネルに用いた低電圧動作デバイスを実現する。2020年度はHfO2系強誘電体キャパシタのパルス応答を解析し、分極がフルに反転する際の反転電流に起因して負性容量的な回路動作をすることを示した。また、溶液プロセスによりYドープHf-Zr-O(HZO)膜を形成する際に減圧雰囲気の結晶化アニールにより良好な強誘電性が得られることを示し、In-Sn-O(ITO)をチャネルとした強誘電体ゲート薄膜トランジスタを試作して良好なトランジスタ特性を得た。 WP2では強誘電体の微小分極応答のメカニズムを検討し、これをシリコン(Si)トランジスタの急峻スイッチ動作に応用する。HfO2膜ならびにHf0.5Zr0.5O2膜のキャパシタを同一のプロセス条件で作製し、分極特性を比較した。電圧掃引幅を少しずつ大きくしながら測定したところ、HfO2膜では小さな掃引電圧から連続的に分極が増加したのに対して、Hf0.5Zr0.5O2膜ではしきい値電圧が存在しこれを超えると一気に分極特性が増加した。膜の構成元素によって微小な分極応答の振る舞いが変化することが明らかになった。また他グループにスパッタ製膜したHZO強誘電体膜を提供した。 WP3では、強誘電体/半導体構造における分極ダイナミクスを解析と実験両面から検討する。2020年度は強誘電体の減分極電界や半導体の非線形応答を考慮してトランジスタ特性を解析し、分極反転時のトランジスタ動作の際に負性容量が現れることを示した。WP1の結果とも併せて、強誘電体の分極反転が負性容量の挙動に寄与しているとの知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、3つの研究機関が、フル分極(WP1:徳光)、マイクロ分極(WP2:太田・森田)、分極相互作用(WP3:藤村)という異なる視点から協力して研究を遂行した。計画調書提出時に参加を予定していた右田(産総研)が外部機関に出向したため、右田に代わり森田が研究に参加するという措置をとった。 2020年度は基礎的な検討を主としたが、WP1の強誘電体キャパシタのパルス応用解析、WP3のトランジスタ動作解析を通じて、強誘電体の分極反転が負性容量の挙動に寄与しているとの知見が得られ、強誘電体ゲートトランジスタの負性容量による急峻スイッチング現象については、その概要が把握できたと考えている。さらに、溶液プロセスによるYドープHf-Zr-O(HZO)膜の形成実験から、酸素雰囲気を避けて結晶化することで強誘電性を示す準安定相の直方晶が成長することを示し、良好な強誘電性が得られるプロセス条件を見出したことも大きな成果である。溶液プロセスにより酸化物チャネルの強誘電体ゲートトランジスタも実現することができた。また、スパッタ堆積HZO膜、HfO2膜についてもその基礎特性を評価して材料特性の理解が進んだ。 新型コロナウイルスの影響で一部導入予定機器の納期が大幅に延長されてしまい、研究期間延長の手続きを行ったが、以上にように研究成果は順調に得られており、研究としてはおおむね順調に進んでいると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、3つの研究機関が同様の役割分担のもとで協力して研究を遂行する。 WP1では、強誘電体飽和ループを利用したフル分極のダイナミクスに基づく負性容量的挙動を解析的に明らかにしたので、今後は強誘電体分極反転の各パラメータが負性容量的挙動にどのように寄与するかを検討する。また、溶液プロセスにより形成したHf-Zr-O(HZO)膜とWP2でスパッタ製膜されたHZO膜を用いて酸化物チャネル薄膜トランジスタを試作し、強誘電体の物性パラメータおよびチャネル膜厚などのデバイスパラメータが急峻スイッチング特性にどのように寄与するのかを検討する。 WP2では引き続き他グループにスパッタ法で形成したHZO強誘電体膜を供給するとともに、スパッタ堆積HZO膜の電気的特性をさらに詳細に検討する。また観測したHfO2およびHZO薄膜の基礎的な特性を用いて、Siトランジスタの急峻スイッチング機構のモデル化を進める。研究が進めば酸化物チャネルデバイスのモデル化も進め、WP1と連携して急峻スイッチング特性を解析する。 WP3では、強誘電体/半導体構造における分極ダイナミクスを数値的に解析し、負性容量発現の条件を明らかにする。強誘電体ゲートトランジスタの動作解析を進めるとともに、本研究グループが開発した正圧電応答力顕微鏡を用いて極薄膜強誘電体のナノポーラ分域の観察を電圧を印加せずに行い、分極反転と半導体との相互作用についての知見を得る。
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