研究課題/領域番号 |
20H00241
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
小野 行徳 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (80374073)
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研究分担者 |
池田 浩也 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (00262882)
藤原 聡 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, フロンティア機能物性研究部, 上席特別研究員 (70393759)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 電子流体 / シリコン / MOSトランジスタ |
研究実績の概要 |
固体材料において、外的散乱の影響が小さい特別な場合には、電子・電子散乱が優勢となり、電子の伝導はその集団運動が支配する特異なものとなる。このような電子の状態は「電子流体」(Electron fluid)と呼ばれる。研究代表者らは、初めてシリコンMOS(SiO2/Si界面)2次元電子系において、また、これまでは欠点であった重い有効質量というシリコンの特性を生かして初めてナノスケール(100nm以下程度)で電子流体効果(ベルヌーイの原理に基づくポンプ効果)を観測した。さらに、同効果を利用した電流増幅器:エレクトロン・アスピレーターを(8Kの低温下にて)実証し、応用研究の端緒を開いた。本課題は上記コンセプトのもと集積回路技術の革新を目指し、「電子流体の情報処理応用」という新たな学術分野を、シリコンMOSテクノロジーを基盤として開拓するものである。 本年度は、以下の三点について検討を行った。第一に、MOS二次元電子系の流体的性質を解明するために、SOI(Silicon on insulator)基板を用いて作製されたMOSトランジスタにおいて、電子間相互作用が顕在化するときに現れる金属・絶縁体転移を観測し、かつ臨界電子密度をゲート制御できることを見出した。また、前年度に電子・正孔共存系を形成する手法を確立したことを受け、SOI基板における電子・正孔共存系の伝導特性を極低温にて調べ、クーロンドラッグ効果を観測した。これは、シリコン系における流体効果の新たな観測手法を提供するものである。第二に、流体効果を用いたスイッチング効果の実証等に向けた、試験デバイス作製を進め完了した。今後、順次基本特性を取得していく。第三に、新たに電子スピンの効果を調べるために、高感度な電子スピン共鳴の電気的読み出し手法を確立し、同手法により界面近傍のドナー電子スピンを検出できることを新たに見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
デバイス試作に関しては、コロナの影響で遅延したが今年度末に完了した。今後、順次基本特性の取得から始めていく。一方、期待以上の結果として、新たな発見が三点あった。第一点は金属絶縁体転移がゲート制御可能であることを示した点である。これは、新たにシリコン系における電子相関研究の手法を提供するものである。第二点はSOI基板における電子正孔系におけるドラッグ効果の検出であり、これはシリコン系における電子流体効果観測の新たな手法に発展する可能性を秘めている。第三点は電子スピン共鳴に電気的読み出し手法により、新たに界面近傍のドナー電子スピンが検出可能でることを見出した。これは電子流体におけるスピン効果を調べる手法へ発展する可能性を秘めている。
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今後の研究の推進方策 |
試作を完了したデバイスの計測を開始する。特に、SOI基板のエッジに流れる低移動度領域の伝導特性の制御により、2次元電子系の主領域における流体効果観測を試みる。また、今年度見出したドラッグ効果の温度依存性、SOI膜厚依存性を詳細に調べることにより、シリコン系における電子電子散乱効果を抽出する。また、様々に構造パラメータを変化させたデバイス群を系統的に測定することにより、電子流体効果発現の高温化に向けた指針を明らかにする。さらに、MOSトランジスタの閾値電流、あるいは高温動作単電子トランジスタのピーク電流を用いることにより、これまで困難であった10-100Kの温度領域における電子温度計測手法を確立する。これにより、電子温度と電子電子散乱長とに関係を明らかにする。 極低温におけるシリコン系超伝導・超流動観測可能性を評価するためのデバイス試作を新たに開始する。次年度は構造パターン設計、および基本プロセスの確立を中心に基礎検討を行う。 上記の内容において、分担者藤原は、今回完了した試作の測定結果等を反映してデバイス構造改善の検討を行う。分担者池田は、作製したデバイスの熱流体効果を調べるためにシリコン2次元電子系の熱伝導特性を調べる。また、代表者小野は、試作が完了したデバイスの測定を進め、並行して流体効果検出のための測定手法を検討する。
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