研究課題/領域番号 |
20H00243
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大野 雄高 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 教授 (10324451)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フレキシブルエレクトロニクス / アナログ回路 / 演算増幅器 / カーボンナノチューブ / 薄膜 |
研究実績の概要 |
1. フレキシブルCNTアナログ集積回路の実証 前年度に確立したCNTアナログ回路設計プラットフォームを用い、ばらつき耐性の高い差動増幅器をプラスチックフィルム上に試作した。特に、反転増幅器を実現 するための利得の高い差動増幅器を実現する場合に、素子ばらつきによって入力換算オフセット電圧が発生し、出力信号に歪みが発生するが、これを抑制する新 たな差動増幅回路を考案し、その有効性をシミュレーションと実験と両面から実証した。この新回路については特許出願を行った。また、回路設計において得ら れたシミュレーション結果と作製した回路の特性が良い一致を示し、本研究で開発した設計手法の有効性を示した。 2. 演算増幅器の設計と試作 前述の差動増幅器に、電源回路やレベルシフト回路、シングルエンド化回路を集積し、高性能演算増幅器をCNTを用いて初めて実現した。低電圧動作性と高利得を 併せ持ち、既報の薄膜トランジスタによる演算増幅器の中で最も高性能であった。これを用いて負帰還の非反転増幅回路を構築することにより、素子ばらつきに 依存せず、高均一かつ高安定性をもつフレキシブル増幅回路を実証した。この結果はCNTデバイスの長年の課題であった素子ばらつきと不安定性の問題に対し、解 を与えるインパクトのある成果である。 3. 高密度・高均一CNT薄膜形成技術の構築 CNT薄膜トランジスタの高性能化を目指し、高均一でバンドル形成のないCNT薄膜を成膜する浸漬堆積法を開発した。ここで、CNT同士がバンドル化することを防ぎ つつ、CNTを基板表面に吸着させることが重要であるが、イオン強度の調整によりデバイ長を制御することにより、それを実現できることを見出した。浸漬堆積法 により成膜したCNT薄膜は従来の吸引濾過・転写法と比較して、非常に均一かつ高密度であり、オンオフ比が低下することなく電流密度の大幅な向上を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高性能フレキシブルアナログ回路について、設計プラットフォームの構築とその有効性の実証、作製プロセスの構築と回路動作実証、伸縮可能な集積回路の作製 技術の構築と実証など、当初計画の研究項目を完遂している。特に重要な成果として、CNT素子の長年の課題であった素子ばらつきや安定性の問題を新規考案の回 路によって解決し、高性能かつ高安定のCNTアナログ回路を実現した点が挙げられる。さらに、実証したCNTアナログ回路が低電圧動作性や低消費電力性、動作速 度などの全ての性能指標において、酸化物半導体や有機半導体を用いたフレキシブル回路より優れており、本研究の優位性を顕著に示した点が挙げられる。 これに加えて、CNT薄膜成膜技術や素子構造の見直しを継続的に実施し、RFIDなどへの応用が現実的となる60 MHzを超える動作速度をもつフレキシブルCNT薄膜ト ランジスタを実現するなど、当初計画にない成果も挙がっている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目標である伸縮基材上へのモノリシック集積によるウェアラブルセンサシステムの構築と動作実証を前倒しして進める。伸縮する基材上に、電気化 学センサと増幅回路、A/D変換回路、RFフロントエンドをモノリシックに集積し、動作を確認することにより本研究の有効性を示す。なお、これまでの研究のなか で、生体信号の検出において、CNT薄膜トランジスタのノイズが問題となる可能性が明らかとなっており、新たに低ノイズ化の研究課題を追加して実施する。特 に、低周波ノイズの起源を明らかにするとともに、それに基づき素子構造を検討し低ノイズ化を実現する。
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