研究課題/領域番号 |
20H00246
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 静雄 京都大学, 工学研究科, 名誉教授 (20135536)
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研究分担者 |
尾沼 猛儀 工学院大学, 先進工学部, 教授 (10375420)
太田 優一 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 開発本部物理応用技術部電気技術グループ, 副主任研究員 (50707099)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 超ワイドギャップ半導体 / 酸化物半導体 / 真空紫外光 / 光物性 / 量子構造 |
研究実績の概要 |
1.MgZnOで不明な現象とされている大きなストークスシフトの起源を探るため、岩塩構造MgZnOにおけるZn添加量を1%まで、0.1%ずつ変化させ、発光観測を行った。Znドーピングによりバンドギャップが減少し、バンド端発光の波長が160 nm近辺から徐々に長波長シフトするものと予測したが、結果はこれに反していた。160 nm近辺のMgOのバンド端発光ピークは、波長が変化せず強度のみが減少し、欠陥の関与する200 nm付近のブロードな発光帯が現れた。一方、170 nm付近には新たな発光ショルダーが現れ、Znドーピング量によりショルダーの位置が徐々に長波長シフトした。これらの結果から、ストークスシフトにアイソエレクトロニックトラップの関与が示唆された。 2.MgOと岩塩構造ZnOの熱膨張係数差が、結晶のモザイクネスに影響を与えることが示唆されたため、熱マネジメントに着目し結晶成長を行った。その結果、ストークスシフトが大幅に低減され、極低温(6 K)で185 nm、室温で190 nm での発光を観測した。 3.X線光電子分光法により岩塩構造MgZnO/MgO界面におけるバンドアライメント解析を行った。 4. 酸化物系でp型を実現するために、価電子帯の上端をアニオン置換によって浅くすることが有効であることを、第一原理計算に基づいて定量的に評価した。また、MgO-MgS混晶はS組成10%程度であれば準安定相として成長できる可能性があることを見出した。 5. MgOの光学的性質を比較検討するにあたり、類似のバンド構造を持つとみられるスピネル構造MgAl2O4及びその混晶系の電子状態計算を行った。MgAl2O4のIII族元素を置換することでバンド構造が直接遷移に変わり、紫外領域での発受光が期待できる物質であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成長環境の改良と成長条件の見直しによりストークスシフトの低減に成功し、190 nm以下の真空紫外域での発光も実現できるようになった。結晶成長、評価装置ともに、真空紫外域での光物性を議論するための体制は十分に整っている。また、MgZnOのバンドアライメントやその伝導帯の制御の指針に関する計算が可能となり、実験結果との対比も進めている。以上のように、研究計画に沿って研究が実施され成果が得られていることから、「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
MgZnOの単結晶および多結晶の両方について、結晶成長、光物性評価、理論計算を有機的に結合させた独自性の高い研究を遂行する予定である。具体的には、以下の方策を計画している。 1.Znドープの他、Ga、In、SドープMgO薄膜を成膜する。発光観測、光物性評価からMgOにおける欠陥発生機構、発光メカニズムについて議論を深める。ここで得られた知見をMgZnOの成膜にフィードバックし、170、180 nm台での発光を目指す。さらに、RS-MgZnO/MgO量子井戸を形成し、波長220 nm帯のAlGaN 量子井戸LEDの外部量子効率0.01%を超える値を目指す。 2.既設の紫外線積算光量計を用い、真空紫外域での外部量子効率の定量評価を行う。また、電子線励起により波長200 nm以下での誘導放出観測を目指す。 3.岩塩構造MgZnOを用いた真空紫外線センサーを製作し、受光感度を定量評価する。また、真空紫外線ランプを試作する。点灯方法は、エキシマランプによる光励起法を用いる。将来の岩塩構造MgZnO系LEDへの展開を見据え、岩塩構造MgZnO薄膜へのGa、Inのドーピング実験を行い、n型導電性制御を試みる。 4. 導電性を実現するためにMgZnOにAlやGaをドープしたものについて電子状態計算を行う。またスピネル構造のMgAl2O4等の電子状態と比較検討することで、実験結果へのフィードバックを行う。さらに、MgZnOとMgOのバンドオフセットを定量的に評価し、量子井戸の設計、バリア層の形成など実際の光デバイスに役立つ指針を計算によって見積もる。
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