研究課題/領域番号 |
20H00248
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
酒井 朗 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 教授 (20314031)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | メモリスタ / 4端子平面型素子 / ゲートチューニング / 酸素空孔 / コンダクタンス変調 / 興奮性主ニューロン / 抑制性介在ニューロン / 高温動作 |
研究実績の概要 |
当該年度は、4端子アモルファスGaOxメモリスタ素子の人工シナプス素子としての機能性を高めるために、抵抗値と相関するシナプス強度の増強や減弱等の機能を素子に実装し、そうした機能に及ぼすゲートチューニング効果を検証した。前年度までに、同素子においては、絶縁破壊プロセス(エレクトロフォーミング)が不必要で、4端子への電圧印加によって再現性ある抵抗変化特性が得られ、それが酸素空孔分布の2次元的変化によるものであることが示された。この優位な抵抗変化特性を利用し、今回は対角線上にある一対の電極を入・出力端子に、もう一対をゲートチューニング端子に割り当てて、抵抗値の書き込みと読み出し、ならびにそれら値の変調を行うべくゲート効果を調べた。その結果、まず、シナプス強度の増強と減弱に対応する入出力端子間のコンダクタンスを多段階で変化させることができた。また、そうしたコンダクタンスの変化率をゲート電圧で変調できることを確認した。これは生体系シナプスにおけるhomeostaticなシナプス可塑性を発揮する興奮性の主ニューロンと抑制性の介在ニューロンの機能に対応する。一方、GaOxメモリスタ素子におけるキャリア伝導機構の探索にあたり、キャパシタ型メモリスタ素子を作製し、電流-電圧ヒステリシス特性の温度依存性を調査した。その結果、素子への印加電圧に依存して空間電荷制限電流が観測され、アモルファスGaOx膜中の欠陥準位による電子捕獲がキャリア伝導に影響していることが示唆された。本実験では室温から600 Kまでの温度依存性を計測したが、いずれの温度においても電流-電圧ヒステリシスカーブが観測された。特に600Kにおいてもヒステリシスが観測される事実は、同温度における抵抗スイッチング現象の発現を意味しており、抵抗変化素子として本素子の高温動作が新たに実証されたことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度は、4端子平面型アモルファスGaOxメモリスタ素子の人工シナプス素子としての機能に着目し、その機能に対するゲート制御の可能性を確認すると同時に、同メモリスタ材料におけるキャリア伝導の支配的機構を電流-電圧特性の温度依存性から定量的に明らかにした。前者は、ゲートチューニング可能なシナプス可塑性が実証されたことを意味し、生体系で対応する興奮性主ニューロンと抑制性介在ニューロンの接合において発現するヘテロシナプス神経機能の模倣に成功したといえる。本成果は今後さらにデバイス内の酸素空孔分布の制御性を高めて、人工シナプス素子に高次脳機能を実装するためのマイルストーンであり、本研究で掲げるヘテロシナプスプラットフォームの一形態が達成された証しである。また、今回、キャリア伝導の温度依存性に関わる計測実験から新たに確認されたアモルファスGaOxメモリスタ素子の高温動作は意義深い。高温のような極限環境下において使用できるメモリ素子や人工シナプス素子として新たな応用に繋がる成果である。以上の観点から当該年度は、当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度に向けて、今後はヘテロシナプスプラットフォームの一形態かつ最終形態である多端子クロスバーアレイ構造を構築し、ヘテロシナプスとしてのニューロモルフィック機能を実装する。これまでに得られた、アモルファスGaOxメモリスタ材料における抵抗変化機構およびそれを理論的に裏付けるドナー分布変遷機構、キャリア伝導機構等に関わる知見を結集して機能増進を図ると同時に、構造作製に関わるメモリスタ材料のパルスレーザー蒸着、電子・光リソグラフィによる微細パターン形成、電極形成等のプロセス技術をブラッシュアップしていく。プロセス構築にあたっては、走査電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等を用いたインライン評価によりプロセス制御性・正確性を随時確認・検討する。また、これまでの4端子平面型メモリスタ素子の作製も並行して進め、その特性との比較検証を有機的に行い、構造・材料・プロセス手順の最適化を図る。
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