本該年度は、いずれも酸素空孔分布のトポロジー制御を機能原理とするアモルファスGaOx(a-GaOx)ならびにエピタキシャルTiO2-xメモリスタ素子を対象に、それらの人工シナプス素子としての機能性向上に向けて2つのアプローチを仕掛けた。一つ目は、将来的な集積化構造を見据えた4端子クロスバー構造の開発であり、クロスポイントにおけるa-GaOxを囲む下部電極、2つのゲート電極、上部電極の4つの電極端子が立体的に交差する構造を、電子線描画と薄膜蒸着+リフトオフの反復プロセスを用いて作製した。形成した構造を走査電子顕微鏡ならびに透過電子顕微鏡観察によって確認し、抵抗変化・シナプス特性を評価した。その結果、上下端子間のコンダクタンス値ならびにpotentiation/depression特性をゲート端子への電圧印加によって変化させるゲートチューニング効果が実証できた。これは、ゲート電圧によってa-GaOx層中の酸素空孔がドリフト・拡散し、ゲート端子近傍のa-GaOx層にある高抵抗層が拡大・縮小したためと考えられる。二つ目は、ヘテロシナプスで発現する高次脳機能であるパブロフ型条件付け連合学習における処理データの次元拡張である。従来のメモリスタ素子による連合学習はすべて「学習するかしないか」の1ビット信号処理に限られており、これを多次元・多ビット信号の情報処理へ変革する新しいアプローチとして、今回、4端子TiO2-x平面型メモリスタの多素子・高集積化を可能にする微細素子を開発した。多次元情報処理に必須の双方向条件付けに係る基礎特性を確認した後、パブロフ型条件付けのプロトコルに従って、条件刺激と無条件刺激に対応する電圧信号を当該微細素子群に入力し、各素子のコンダクタンス変化を計測した結果、5×5の25ビットデータのパブロフ型条件付けの実装に成功した。
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