本研究では,研究代表者らが世界に先駆けて開拓してきた世界最小損失のテラヘルツフォトニック結晶回路技術に物質科学に変革をもたらしているトポロジカルな性質を与えることで飛躍的な発展をはかり,テラヘルツ波を利用した通信やセンシングなどの応用を切り拓くことを目指した. トポロジカルフォトニック結晶では周期構造中に界面を形成すると,それが伝送路として働く伝搬状態を生成される.そのような伝送路では,テラヘルツ波のトポロジカルな性質によって,通常の伝送路では生じる曲げ,分岐およびフィルタ構造における後方散乱の抑制効果が期待できる. トポロジカルフォトニック結晶の基本構造として,トポロジカルな性質の起源といえる電磁波に対する擬スピン状態を生成可能な大小の三角空孔をシリコンスラブに六員環状に周期的に配置した構造を採用した.その際,高い抵抗率を有するシリコンを利用することでテラヘルツ帯で課題となる吸収損失を抑制した.そして,フォトリソグラフィ,プラズマエッチングといった微細加工技術で利用することで実験用の試料を作製した. 異なる種類の界面を有する伝送路の特性を比較したところ,分散関係の違いに起因して,大きな三角空孔が界面に並ぶ構造では低周波側の漏れを抑制することが可能であり,広帯域な動作が可能であることがわかった.さらに大小の孔の大きさの差を拡大することでフォトニックバンドギャップ効果を大きくすることで0.3 THz帯で従来を上回る40 GHz以上の帯域を実現した伝送路で26 Gbit/sのエラーフリー通信に成功した. また,異なる種類の伝送路を結合させることでカットオフ周波数が調整可能なトポロジカル伝送路フィルタを実現した.カットオフ周波数の異なるフィルタを直列に配置することで3チャンネルの合分波器動作に成功し,0.3 THz帯において合計30 Gbit/sのエラーフリー通信速度が得られた.
|