研究課題/領域番号 |
20H00266
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
安福 規之 九州大学, 工学研究院, 教授 (20166523)
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研究分担者 |
村上 哲 福岡大学, 工学部, 教授 (10261744)
笠間 清伸 九州大学, 工学研究院, 教授 (10315111)
酒匂 一成 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (20388143)
所 哲也 北海学園大学, 工学部, 准教授 (40610457)
石川 達也 北海道大学, 工学研究院, 教授 (60359479)
川尻 峻三 九州工業大学, 大学院工学研究院, 准教授 (80621680)
川村 志麻 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (90258707)
石藏 良平 九州大学, 工学研究院, 准教授 (90510222)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 災害免疫力の工学的評価 / 気候変動と適応策 / 自然斜面・切土法面・盛土 / 降雨・融雪形態と地震動 / 地盤災害と地域性 / 地盤脆弱性の経年変化 / 土砂移動量と移動距離 / 土砂災害発生危険基準線 |
研究実績の概要 |
本研究では、九州と北海道の自然・人工斜面と盛土地盤を対象として、1)経年的に変化する地盤災害に対する免疫性(災害免疫力)の工学的評価、2)気候変動に伴う降雨・融雪形態の変化や地震動と関連付けた地盤災害危険個所の抽出と実用的な土砂移動の算定、3)気候変動に伴う降雨形態の変化を反映した実用的なリアルタイム危険度診断、4)土砂災害警戒基準の気候変動による動向評価、経年変化を導入した地盤災害脆弱性マップの考え方の提示とその事例作成をめざしている。令和4年度の研究実績を以下に示す。 1)については、切土のり面の経年変化を反映した災害抵抗力の統計的算定手法を提案し、その適用事例を示した。また、九州の自然斜面等を対象とした災害免疫力の考え方を提示し、提案手法を福岡県で生じた既往災害に適用し、その有効性を示した。2)と3)に関しては、気象レーダー情報や地盤情報データベースなどの地形・地質・降雨の空間情報をGIS上で統合し,降雨時の地下水位変動や浸透流を考慮した力学モデルおよび機械学習を併用した斜面崩壊予測モデルを作成した。また、作成した斜面崩壊予測モデルを平成29年7月九州北部豪雨に適用し、モデルの精度評価を行った。加えて、道路被害に関する資料を鹿児島県より入手し,災害免疫力評価に必要な情報や取りまとめ方法について検討するとともに、粒子法の一種であるSPH法のプログラムを作製し,斜面崩壊後の土砂移動に関する基礎的な解析を行った。 河川堤防においては、気候変動に伴う浸透外力の変化と地盤特性の不均質性に着目した堤防基礎地盤の危険度評価手法の検討が進められた。さらに、降雨・融雪と地震外力を受けた北海道の火山灰質盛土の安定性評価に向けたデータ分析に加えて、地震後の道路盛土の耐津波抵抗性を大型模型実験に基づいて分析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、令和5年度までの4年間の研究期間内で、気候変動災害脆弱地域と想定される九州と北海道の自然斜面、切土のり面、道路盛土と河川堤防を対象として、1)特殊土地盤の経年変化を反映した地盤災害に対する免疫性(災害免疫力)の工学的評価、2)気候変動に伴う降雨・融雪形態の変化や地震動と関連付けた地盤災害危険個所の抽出と土砂移動を考慮した危険度判定手法の高度化、3)気候変動に伴う降雨形態の変化を反映した実用的な危険度診断、4)土砂災害警戒基準の気候変動による動向評価ならびに適応策整備順位とその効果の客観化、地盤災害脆弱性マップへの展開をめざしたものである。その中で、この3年間おおむね順調に進展していると判断した主要な理由を以下に示す。 1)の項目については、まず、災害免疫力に関する基本的考え方を示せたこと、特に、切土のり面を対象として実用的な工学的評価指標の提案ができたことが挙げられる。また、九州を事例に降雨履歴と被災との関係性が新たな地域性評価指標として提案され、その手法に基づいて最終成果のアウトプットが期待できる状況にあること。また2)と3)の事項については、九州と北海道で、機械学習と力学モデルを併用したアプローチによって、土砂災害発生危険基準の地域性を反映した将来予測を行うための工学的手法を整えたことに加えて、地盤・地形・地質特性および降雨情報などとの関係について分析を行い、影響指標を具体化するための素地が示せたこと、さらに、新たな形態の斜面災害リスクを評価可能な豪雨時の降雨浸透・流出を考慮した広域/狭域斜面安定解析手法を示せたことなども当該研究が着実に進展していると判断した理由である。また、河川堤防のリスク評価についても河川水位の上昇速度に着目した具体的な手法が九州の事例をベースに提示されており、今後、九州と北海道での河川堤防のリスク評価への展開が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、九州と北海道を研究拠点にもつ9名のメンバーで実施している。先に述べたように概ね順調に進展していると判断しており、オンラインツールを活用しながら、最終年度である今年度も昨年度同様の考え方で研究の推進を図ることとしている。具体的には、これまでの研究成果を踏まえ、また統合し、1)切土のり面を対象に力学的要素と社会的要素が内包した災害に対する免疫性(災害免疫力)の工学的な評価手法を提示し、その実用性と学術的価値を明らかにする。2)各種気候変動シナリオにおける斜面道路被災件数の予測解析を実施し、事前・事後対策による災害免疫力向上効果と気候変動シナリオに対する適応策を提示する。3)亜熱帯先進地の九州と積雪寒冷地の北海道を対象として、自然斜面のリアルタイム危険度診断手法の提案とともに、土砂災害警戒基準や法面保護・排水設備の設計指針の気候変動による動向評価に繋げる。4)気候変動を考慮した融雪期土砂災害の評価法および複合外力を受ける火山灰盛土の安定性評価法の提案に繋げる。また、凍結融解作用を受ける地盤の浸透特性を考慮し、凍結融解、融雪および降雨による斜面の浸食性を評価する。5) 土砂移動を考慮した危険度判定手法およびSPH法による土砂移動量・到達距離の評価手法の提案に繋げる。6) 河川堤防の地盤特性のばらつきや気候変動に伴う浸透外力の影響を考慮できるパイピング破壊やすべり破壊に対する危険度評価法を具体化する。7) 複合外力を受ける盛土の最適な補強工法および設計法の提案を行う。また、経年変化を受ける盛土の浸透特性の変化に着目した災害免疫力の定量化を試みる。 以上の推進方策に基づいて、最終の報告として、災害免疫力の考え方を基本として、対象とする地盤災害をいくつか設定して、気候変動と地域性を反映した地盤災害脆弱性マップの在り方の提案と総合的な評価手法に繋がる成果を取りまとめる。
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