研究課題/領域番号 |
20H00289
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
川村 隆一 九州大学, 理学研究院, 教授 (30303209)
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研究分担者 |
望月 崇 九州大学, 理学研究院, 准教授 (00450776)
竹見 哲也 京都大学, 防災研究所, 准教授 (10314361)
川野 哲也 九州大学, 理学研究院, 助教 (30291511)
早稲田 卓爾 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (30376488)
飯塚 聡 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 水・土砂防災研究部門, 総括主任研究員 (40414403)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 災害ハザード / メガストーム / 近未来予測 / 台風 / 爆弾低気圧 |
研究実績の概要 |
(1)日本周辺域での夏季・冬季気候の数年程度の変動傾向について、全球気候モデルによるハインドキャスト実験結果に気候値バイアス・気候ドリフト除去を施して、過去の観測データ・再解析データと比較検証から物理解析や予測解析での有用性を実証した。 (2)中長期的に海面水温が予測可能な海域である北西太平洋低緯度域の大気海洋変動と日本近海の爆弾低気圧活動の10年規模変動との関係性について、大規模アンサンブルデータセットd4PDFを用いて熱帯の気候レジームシフトの重要性を検証した。 (3)令和2年7月豪雨など近年の災害をもたらした顕著事象を対象に、気象データの解析や領域気象モデルシミュレーションにより、発生時の気象条件を調べた。また、建物解像LESモデルを構築し、市街地での暴風シミュレーションを実施した。 (4)南西諸島周辺の黒潮域の海面水温(SST)が2020年7月熊本豪雨に与える影響について調査するために数値シミュレーションを実施した。黒潮域SSTの熊本豪雨へのインパクトは豪雨前半より豪雨後半の方が大きいことが示唆された。 (5)大気海洋波浪結合モデルを用いた爆弾低気圧の再現結果から、波浪により発達が促進されることを明らかにした。しかしながら、強風下の波浪自体の現場検証は少なく、そのため、船舶による波浪計測の準備を開始した。 (6)災害記録データなども踏まえた降水イベントの抽出を行った。再解析データが揃う北米のハリケーンを対象に台風による雨の要因分析手法の開発を進めた。また、令和元年東日本台風の降水に海水温が及ぼす影響を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
台風・爆弾低気圧活動の変調予測に資する、全球気候モデルによるハインドキャスト実験結果に気候値バイアス・気候ドリフト除去を施して有用性の検証を進めている。日本周辺域での夏季・冬季気候の数年程度の変動傾向については十分な有用性を確認できたので、次の段階としてアンサンブル予測結果を利用した将来変化傾向の調査を開始することが可能となった。その意味で、順調に進展している。また、大規模アンサンブルデータ(d4PDF)によるストーム活動の不確実性の定量的評価については、d4PDFで表現される海面水温強制による変動と大気内部変動は先行研究と同程度であることが確認できた。 LESモデルによる暴風災害ハザードの評価については、建物解像LESモデルを構築し、市街地での暴風シミュレーションを開始することができ、順調に進展している。豪雨災害ハザードについては、令和元年東日本台風や令和2年7月豪雨などの降水プロセスの解明が進んでいる。爆弾低気圧・台風下の波浪の再現性向上のために、大気海洋波浪結合モデルでの再現を試みているが、現場検証のデータが極端に不足している。その解決のために、船舶搭載のマイクロ波ドップラー波高計による航路に沿った波浪計測を準備中である。 気象観測・被害情報データに基づく災害強度の推定に関しては、アメダスの降水量データや再解析データを利用した極端降水イベントの抽出を進めている。また比較調査のために、まずは北米のハリケーンを対象に台風による雨の要因分析手法の開発を進めている。 各サブ課題の研究の進捗状況を総合的に評価すると、当初の計画以上に進展している研究がある一方、想定より若干遅れ気味の研究も一部あることから、自己評価は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
①全球気候モデルによる初期値化を施した将来気候のアンサンブル予測結果を利用して、潜在的なメガストーム活動や背景場となるような日本周辺域での夏季・冬季気候の将来変化傾向について、その不確実性・予測可能性とともに評価する。 ②引き続き大規模アンサンブルデータセットd4PDFを用いて、日本近海の爆弾低気圧活動の10年規模変動を調べ、海面水温強制による変動と大気内部変動との分散比を評価することで、予測の不確実性を調査する。 ③台風などのように時間・空間で激しく変化する気象擾乱起源の市街地規模での暴風をシミュレーションを可能とするため、LESモデルに非定常な流入境界条件を取り入れることができるように気象モデルとLESモデルとの結合手法を高度化する。そして、台風に伴う市街地での暴風の定量的な評価を試みる。 ④領域気象モデルWRFを用いたMIROC6将来気候データの力学的ダウンスケーリング手法によって,将来気候における日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)およびそれに伴うメソ渦の振る舞いを調査する。また極端現象による災害事例として、2021年1月の豪雪をもたらした爆弾低気圧・JPCZの発生メカニズムとその暴風雪災害ハザードの評価を行う。 ⑤爆弾低気圧下では20mを超えるような波浪の発生がシミュレーションにより得られているが、10数mを超える高波高域ではモデル間のばらつきも大きく観測データも不足するため、十分な検証ができていない。引き続き現場観測の機会を利用し、船舶の安全な航行に資する高波高域の予測精度の高度化を目指す。 ⑥アメダスの降水量データや再解析データを利用した解析を引き続き進める。特に台風の経路上周辺の降水と台風から遠方でもたらされた雨について分類を進める。また被害情報などの対応関係について調査する。さらに台風の中心気圧と風速の関係のばらつきを調べ,被害情報との対応関係についても検討を始める。
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備考 |
①2020年7月朝日新聞:九州北部豪雨のメカニズム 『異例の雨』スパコンで再現 九大『事前の避難 つなげたい』 ②2020年9月北日本新聞:『大雪の原因』実は雪降らさず 元富山大教授、定説と真逆の新説 ③2021年2月日本経済新聞:天気のなぞ「暴風雪を呼ぶ爆弾低気圧 春が近づく時期に」
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