研究課題/領域番号 |
20H00296
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
古原 忠 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (50221560)
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研究分担者 |
大谷 博司 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (70176923)
秋山 英二 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (70231834)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 粒界偏析 / 脆化 / 鉄鋼材料 / 高強度化 / 粒界構造 |
研究実績の概要 |
(1)不純物偏析の粒界性格依存性の評価: 高純度Fe-P二元合金を、フェライト単相域の600℃においてPが平衡偏析に達するように長時間焼鈍した。個々の粒界の回転軸と回転角を電子線後方散乱回折法(EBSD)により測定し、面方位を集束イオンビーム(FIB)加工により作製した断面上のトレースから評価した上で、粒界性格を方位差の傾角成分とねじれ成分で評価した。三次元アトムプローブ(3DAP)の結果から、大角粒界におけるPの偏析量が比較的に高く、ねじれ成分よりも傾角成分のほうが偏析量に大きな影響を与えることがわかった。 (2)粒界を対象とした大規模なモデルを第一原理計算の精度で計算可能にする目的で、第一原理計算を高精度で再現する深層学習ポテンシャルの作成に取り組んだ。作成した深層学習ポテンシャルは第一原理計算結果を誤差0.03 eV/atom以内の精度で再現する結果が得られた。さらに10000原子以上の大規模なモデルにおける計算が可能であることも確認し、粒界中の局所構造の特徴を明らかにする計算手法を整えた。 (3)リンの粒界偏析量がそれぞれ2 at%,4 at%,6 at%であるFe-0.01P (mass%) を用いて浸漬試験を行い,リンの粒界偏析が鉄の腐食に及ぼす影響を調査した.合わせて腐食粒界の結晶方位差を測定することで以下の2つの結論を得た.(1) リンの偏析量が大きいほど腐食の開始確率が高まったが,腐食の進展速度には影響を与えなかった.(2) 小角粒界では腐食が生成しなかった.また,結晶方位差が大きくなるとともに腐食痕の数が増加していた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、不純物偏析の粒界性格依存性の評価により、大角粒界におけるPの偏析量が比較的に高く、ねじれ成分よりも傾角成分のほうが偏析量に大きな影響を与えることが分かっていること、第一原理計算を高精度で再現する深層学習ポテンシャルの作成により誤差0.03 eV/atom以内の精度で再現する結果が得られていること、リンの粒界偏析が鉄の腐食に及ぼす影響調査より、リンの偏析量と腐食挙動の関連が明確にできているため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題が掲げる、粒界構造と粒界偏析の相間および粒界偏析が特性に及ぼす影響を先端解析と計算材料科学の両面から解明するために、本年度は各グループにおいて観察・解析手法を確立し、偏析解析ならびに特性評価に適用する。 【粒界偏析の温度依存性と他元素添加の影響解明】不純物粒界偏析の温度依存性を、高純度Fe-P合金を用いて調査する。Pの粒界偏析が平衡状態になるまで各温度で長時間焼鈍を行う。昨年度に確立した手法で、粒界性格を揃えたうえでPの粒界偏析を三次元アトムプローブで定量評価し、その温度依存性を解明する。また、Fe-P合金に微量なCを添加し、同様な方法でPの粒界偏析におよぼす第三元素Cの影響を明らかにする。さらに、昨年度に導入した微小衝撃破断試験機システムを立ち上げ、不純物の粒界偏析によるバルク材の衝撃特性の変化を評価する手法を確立する。 【第一原理・MDによる大角粒界の原子構造の評価法確】 昨年度は,粒界構造と液体構造の関連性から小さなセル内での原子配置を検討したが,本年度はより大きなセルで平均構造を解析するために,深層学習を用いて第一原理分子動力学法のポテンシャルを古典分子動力学法のポテンシャルに変換して原子配置を計算し,ここから多面体構造を抽出しながらランダム粒界構造を作成する.さらに多面体の中心位置に溶質元素を配置した場合のエネルギーを第一原理計算によって評価し,粒界偏析の本質的要因を調べる. 【元素偏析下での腐食挙動の評価】昨年度に鉄における腐食挙動の粒界P量および粒界方位差依存性を明らかにした。これに引き続き①同実験の追試および②高純度鉄の粒界方位差依存性を明らかにするための実験を遂行する。これに加えて水素拡散と粒界偏析の関係を明らかにするための実験を行う。
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