研究課題/領域番号 |
20H00297
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
殷 しゅう 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (40271994)
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研究分担者 |
朝倉 裕介 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (00762006)
長谷川 拓哉 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (30793690)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 混合原子価状態 / 赤外遮蔽 / サーモクロミック / レアメタルフリー / 薄膜 / 可視光透過 |
研究実績の概要 |
現行の熱線遮蔽材料には希少金属Inが多く使われるスズドープ酸化インジウム(ITO)等が利用されている。本研究は、ITOの代わりに、混合原子価状態タングステンサブオキサイドW18W49及びサーモクロミック機能を有するVO2材料にフォーカスし、材料の組成制御、ナノ粒子化や形態制御を行い、可視光透明性の向上及び更なる赤外遮蔽機能の向上を検討し、新規レアメタルフリーな赤外線制御材料の創製と機能性向上について研究を進めている。 我々は、新規プロセス開発の一環として、酢酸及びエタノールを反応溶媒として利用し、エステル化反応による反応系中に生成した水分子の量を制御することにより、様々な材料合成に利用可能な汎用性WCRSPプロセスを開発した。高い誘電率を有する水分子をゆっくり放出することにより、溶解再析出プロセスの精密制御により、均一な形態を有する酸化物ナノ粒子の合成ができることを明らかにし、様々な機能材料へ適用可能であることを見出した。 これまでのCs0.33WO3赤外遮蔽機能材料について検討した結果により、赤外線遮蔽機能はW元素の混合原子価状態に起因したことが分かった。それと同様の混合原子価状態を有するW18W49も優れた赤外線遮蔽機能を有することを確認した。尚、酸化バナジウム(VO2)は70℃付近を境に単斜晶VO2(M)相から正方晶VO2(R)相への半導体-金属相転移が起き、それに伴い赤外光透過率が大きく変化するサーモクロミック特性を持つ。我々はVO2の酸素サイトに電気陰性度などの性質が大きく異なるアニオンの導入に注目し、環境にやさしい溶液プロセスを利用して、ハロゲン元素ドープにより単斜晶VO2 (M)相から正方晶VO2 (R)相への半導体-金属相転移温度の低下を引き起こすことに成功した。ハロゲンの中では、フッ素(F)ドープは最も有効であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な無機機能材料合成に利用可能な新規水分子制御放出ソルボサーマルWCRSP(Water Controlled Release Solvothermal Process)プロセスを開発した。このプロセスによって合成した無機材料は均一な粒子形態及び小さな粒子サイズを有することが特徴であり、一定の汎用性を有し、このプロセスを利用し、均一粒子形態を有する混合原子価状態タングステンサブオキサイドW18W49の合成とその赤外遮蔽機能の実現に成功した。 尚、サーモクロミック機能酸化バナジウム(VO2 )材料について、水熱プロセスにより直接合成が可能であることを実証したとともに、アニオンドープを施すことにより、VO2 (M)相から正方晶VO2 (R)相への半導体-金属相転移温度の低下を引き起こすことに成功した。これにより、酸化バナジウムの半導体-金属相転移温度の低下を実現し、様々なアニオンの中、フッ素ドープは最も有効であることを明らかにし、サーモクロミック作動温度の低下ポテンシャルを明示できた。 以上の結果を踏まえ、混合原子価状態タングステンサブオキサイドW18W49及びサーモクロミック機能を有するVO2材料は、スズドープ酸化インジウム(ITO)を代替できる新規レアメタルフリーな赤外線遮蔽材料として利用可能であることを明らかになり、本研究は、依然機能性向上等の課題が残っているが、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
新規プロセス開発の一環として、引き続き材料合成プロセスの低温化・迅速化について検討し、マイクロ波アシスト水熱プロセスによる材料合成の可能性探索を行い、マイクロ波の利用による高効率・高選択加熱と材料合成を図る。 材料の赤外線遮蔽機能の高度化を目指し、液相法及びガス雰囲気制御などの気相法を含め、多様なアニオン化手法によるドーピング処理を行うとともに、元素置換を行い、カチオンを含めた複合イオンドープによる機能性向上効果を検証する。 具体的には、混合原子価状態化合物W18O49について、Cu,Mo,Ce,F,N, Sなど様々なイオンのドープを施し、光化学機能に及ぼすドーピングの影響と効果を検証する。サーモクロミック機能を有するVO2について、F或はClやNなどのアニオン及びWやMo等などのカチオンを利用し、複数のイオンを含む「複合イオン化合物」を創製相転移し、相転移温度の低温化とサーモクロミック機能の制御を図る。 尚、赤外遮蔽機能粉体材料のシート化条件探索に着手し、成膜条件の検討と最適化を行う。無機粉体をコロジオンやエタノール等の溶媒に分散し、ドクターブレード法などによる薄膜の調整と評価を行うと共に、ナノ粒子をポリジメチルシロキサン(PDMS)に分散し、ナノ粒子ーポリマーハイブリッド材料創製を行い、ガラス基板に張り付け可能なフレキシブルな赤外線遮蔽機能フィルムの調製を試み、薄膜の性能評価を行う。
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