研究課題/領域番号 |
20H00299
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
関 剛斎 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (40579611)
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研究分担者 |
温 振超 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, 主任研究員 (40784773)
三浦 良雄 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, グループリーダー (10361198)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピンオービトロニクス / スピン変換 / 規則合金 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、大きく分けて①強磁性金属内におけるスピン変換の全容の究明、②自己誘導的スピン軌道トルクの機構の理解とその制御、③高いスピン変換効率を有する強磁性金属を創製の3つの研究項目を計画しており、2020年度は①および②について以下のように研究に取り組んだ。 ①に関して、強磁性スピン変換層 (FM1) / 非磁性層 (NM) / 強磁性検出層 (FM2)の巨大磁気抵抗(GMR)膜において、スピントルク強磁性共鳴(ST-FMR)およびホール電圧の高調波測定を用いることによりスピン変換を定量的に評価した。2020 年度は材料系としてホイスラー合金のCo2MnGaを選択し、Co2MnGa/Ti/CoFeBの積層構造を作製しホール電圧の高調波測定よりスピン変換効率を見積もったところ、-7.8%の高い変換効率が得られることが明らかとなった。さらに、そのスピン変換によって生じたスピン軌道トルクをCoFeB層に作用させることで磁化反転を誘起できることを実証した。これらの実験の他に、低温でST-FMRを測定するための測定系の立ち上げを行い、Pt/Ni-Fe積層構造を用いた予備実験を行い、当該測定系が首尾よく動作することを確認した。②については、Fe-Ni不規則合金を用いた単層ST-FMRの測定と評価に取り組んだ。Al-O/Fe-Ni/Al-Oの対称な積層構造およびAl-O/Fe-Ni/Si-Oの非対称な積層構造を有する2種類の単一強磁性層の試料について、ST-FMRによりスピン変換を評価した。その結果、非対称構造や界面効果によるスピン変換機構に関する重要な知見を得た。上記した実験に加え、Co2MnGaの電子構造について第一原理計算を行い、磁気緩和の結晶方位依存性などについて検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Co2MnGa/Ti/CoFeBにおける高いスピン変換効率の実現に加え、スピン軌道トルク磁化反転も実証しており、また単一強磁性層のST-FMR測定により非対称構造や界面がスピン変換に与える影響という重要な知見も得られている。さらに、2020年度においてスピン変換の温度依存性を評価するための測定系の構築も完了し、2021年度より予定通り評価に着手できる状況にある。また、第一原理計算を援用することで実験結果の理解が進んでいる。したがって、今年度の研究実施内容は計画を概ね達成するものであり、研究は順調に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
①に関しては、2020年度から引き続き、FM1 / NM / FM2のGMR膜におけるスピン変換の定量評価に取り組む。強磁性スピン変換層には、FePtやFePdなどのL10型規則合金、Co2MnGaやCo2MnSiなどのホイスラー合金を選択する。特に、2020年度にスピン軌道トルク磁化反転の観測に成功したCo2MnGa/Ti/CoFeB系を中心として、ST-FMRを用いた評価を進める。また2020年度に構築した低温においてST-FMRの磁場角度依存性を測定できるセットアップを用いて、スピン変換効率の温度依存性を調べる。特に、Co2MnGaホイスラー合金以外にも温度低下に伴い常磁性から強磁性へと相転移を示す材料において、相転移によって変換効率がどのように変化するかを明らかにする。 ②に関しては、2020年度に遂行したFe-Ni不規則合金を用いた単層ST-FMRの実験から、自己誘導的スピン軌道トルクの起源が明らかになりつつある。2021年度はその実験をCo2MnGaやCo2MnSiなどの規則合金材料へと展開させ、機構の統一的な理解を目指す。加えて、自己誘導的スピン軌道トルクを利用した単層ST-FMRが、極薄強磁性層の磁化ダイナミクスを評価する手法としても有用であることがわかってきた。そこで、今後はその有用性をより明確にするため、研究対象とする材料系を広範に設定し系統的な実験を行うことで、従来手法ではアクセスが難しい極薄領域における有効な評価手法として確立させる。 これらの実験と並行して、引き続き理論計算による検討も行う。内因性のスピン異常ホール伝導度およびスピンホール伝導度を計算し、フォノンを考慮した有限温度への拡張も試みる。そして、計算結果を実験結果と比較することで③へと繋げるための材料設計指針を得る。
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