研究課題/領域番号 |
20H00304
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
春日 敏宏 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30233729)
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研究分担者 |
小幡 亜希子 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40402656)
平田 仁 名古屋大学, 予防早期医療創成センター(医), 教授 (80173243)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 複合無機粒子 / 炭酸カルシウム / 非晶質相 / ガラス / リン酸処理 / 骨形成 / 綿形状人工骨 |
研究実績の概要 |
本研究は、炭酸カルシウム粒子をリン酸液処理する方法を用いて、骨形成を刺激する微量元素BとSrを含有した複合無機粒子を創製し、高齢者にも有効な人工骨の設計に活かすことを目的とする。本年度は、①B, Srを含有する新奇の炭酸-リン酸カルシウム複合無機粒子を作製すること、②B, Srイオンの免疫細胞への働きかけと、これを介した間葉系幹細胞への影響を調べること、③この粒子を用いて細胞の活動しやすい形状に成形する方法を見いだすことを目的とした。 ①については、アモルファス相を多く含むバテライト(ケイ素含有タイプ)を用いてリン酸液処理を試みたところ、バテライト粒子内部にリン酸イオンが取り込まれたことを確認できた。しかし処理液中のホウ酸量が少ないこともあり検知が難しい状況である。今後、最適導入量の検討を続ける。一方、Srについては、塩化物水溶液と反応させる方法をも採り入れて(Ca, Sr)CO3化合物を得るところまで進み、今後リン酸液処理を施して複合粒子を作製する。 ②については、10 ppm以上のホウ酸イオンに刺激されたマクロファージRAW264の免疫反応が、間葉系幹細胞KUSA-A1の細胞外マトリックス形成能を促進させることがわかった。また、1~30 ppmのホウ酸イオンに刺激されたRAW264の免疫反応が、KUSA-A1の石灰化を促進させた。また、Srイオン含有培地を用いてマクロファージのサイトカイン産出量を評価したところ、炎症性サイトカインであるTNF-α産出の増加を示した。多量のTNF-αを産出したSrイオンにおいて骨分化の促進がみられた。したがって、B、Srイオンによって刺激を受けたマクロファージは骨形成を促進するという傾向が明らかになった。 ③については、無機粒子とポリ乳酸グルコール酸共重合体の複合化を試み、湿式紡糸法を用いて繊維状に成形する方法について検討した。幅100μmで厚さ30~50μmの長い扁平繊維を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① B, Srイオンを混在させた炭酸-リン酸カルシウム複合無機粒子の作製については、ホウ酸含有リン酸液を作製して処理したが、粒子内部にリン酸イオンが取り込まれたことは確認できたものの、リン酸量・ホウ酸量ともにわずかしか取り込まれなかった。これらイオンの導入の方法とその最適量の検討を続ける必要がある。また、Srについては、塩化物水溶液と反応させる方法を採り入れて(Ca, Sr)CO3化合物を得てこれをリン酸処理する方法を考え、化合物を得るところまで進んだが、リン酸液処理までに至っていない。したがって、①についてはやや遅れている、と判断した。 ② 得られた無機粒子を用いたB, Srイオンの免疫細胞への影響の調査については、両イオンについて興味深い結果が得られ、2021年秋には学会発表を予定している状況であり、予当初計画よりも進展していると判断した。論文執筆にも取りかかる予定である。 ③ 無機粒子と生分解性ポリマーとの複合化については、無機粒子として、まずは既存のβ型リン酸三カルシウム(TCP)粒子を用いて、D体を含有するポリ乳酸グルコール酸共重合体(PDLLGA)の複合化を試みた。ポリマーの柔軟性が高く、また分子量が小さいため、電解紡糸法では細い繊維しか作製できなかったが、湿式紡糸法を用いて目的の扁平繊維状に成形することができた。このノウハウを見いだしたことは本研究にとって非常に意義深く、特許出願を予定している。順調に進展していると判断した。 以上の①②③を総合して、本研究は概ね順調に進展していると判断するものである。
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今後の研究の推進方策 |
① B, Srイオンを含有する炭酸-リン酸カルシウム複合粒子の作製: 生体材料の埋入後にすぐに応答を始める免疫細胞へ働きかけるため、代表者の春日は、引き続き、炭酸カルシウム粒子中のアモルファス相にB, Srを導入することを試みる。薄いリン酸水溶液にB, Srイオンを共存させ、常温・短時間で炭酸カルシウム粒子を処理する方法を検討する。複合無機粒子の形成過程とその構造の詳細、粒子のイオン溶出挙動を調べる。さらに、無機粒子の性能比較検討に用いることを目的として、とくに次の②の効果を確かめるべくB2O3やSrOを含んだガラスを作製し、イオン溶出特性を調べる。 ② 得られた無機粒子を用いたB, Srイオンの免疫細胞への影響の調査: マクロファージが微量の無機イオンにどのように応答するのかを引き続き調べる。種々の濃度のB, Srイオンを含有する培地を調製しマクロファージを培養した際の代表的サイトカイン産生量等を調べる。 ③ 無機粒子と生分解性ポリマーとの複合化: 生体応答に関する情報共有を密にした上で、有望と期待される無機粒子をポリ乳酸-グリコール酸共重合体に分散させた複合体を作製する。これを厚膜状に成形し、イオン溶出挙動を調査する。また、上記の複合体をファイバー化する方法として、昨年度「湿式紡糸法」が有望であることを見いだしたが、免疫細胞を早く材料に接着させて活動させるために、3Dプリンターを利用してファイバーを扁平状に成形する条件を探る。 得られたファイバーの生体親和性を評価するため、小動物を用いた実験を行う。プロトコルの作成と実際に埋め込むところまで進める予定である。
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