研究課題/領域番号 |
20H00311
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
高島 和希 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (60163193)
|
研究分担者 |
峯 洋二 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (90372755)
郭 光植 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 助教 (90847170)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 構造・機能材料 / 鉄鋼材料 / マルテンサイト / 疲労き裂伝播機構 / 耐疲労強化 |
研究実績の概要 |
本年度は、目的とするラスマルテンサイトの階層組織から選択的に微小CT試験片を採取し、疲労き裂伝播試験及びき裂伝播を直接観察できる計測法の開発を行うとともに、単一構成組織要素(単一パケット)における疲労き裂伝播挙動を調査した。 試料には炭素を0.2~0.5%含有する低炭素鋼を全面ラスマルテンサイト組織にしたものを用い、微小試験片が採取できる厚さ50μm程度まで研磨し、電子線後方散乱回折(EBSD)法により組織観察を行い、試験片採取位置を選択後、微細レーザ加工機及び集束イオンビーム加工機を用いて、微小CT試験片を作製した。また、本試験片に対して疲労試験が行える試験機及びレーザ顕微鏡により疲労き裂伝播過程を直接観察できる試験機の開発を行った。 次に、き裂先端が一つのパケット内となるように作製した微小CT試験片に対して、き裂の進展方向と晶癖面(ブロック界面)の角度を変えて、疲労き裂伝播試験を行い、き裂伝播に及ぼす晶癖面及びブロック界面方位の影響を調べた。その結果、疲労き裂の伝播方向はブロックの方位(晶癖面の方位)によって大きく変化し、疲労き裂の進展方向と晶癖面が平行なときには、き裂はブロック界面と平行(荷重負荷方向と垂直方向)に伝播した。また、き裂進展方向が晶癖面と45度の場合、き裂は晶癖面と平行(すなわち、荷重負荷方向から見るとと45度の方向)に伝播した。き裂進展方向がブロック界面(晶癖面)と垂直になるときには、き裂はブロック界面に沿って少しだけ進展し、その後ブロック界面を横切って晶癖面と垂直方向に伝播するという過程を繰り返しながら、マクロ的には荷重負荷方向と垂直方向に伝播した。また、このとき裂伝播抵抗が最大となった。このようにラスマルテンサイトの一つのパケット内における疲労き裂伝播挙動は、ブロック界面(晶癖面)の方位に大きく依存して変化することが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の9月までは、新型コロナ感染拡大により、大学への入構制限措置も実施されたため、疲労き裂伝播試験で使用する微小CT試験片の作製及び疲労試験の実施が大幅に遅れた。本研究課題で、最も時間を要するのが、微小CT試験片の作製である。そこで、10月から当初の計画では予定していなかった技術補佐員を雇用し、試験片の作製及び疲労試験の実施業務を依頼した。その結果、試験片の作製が大きく進展し、年度末までに疲労試験をほぼ計画通りに実施することができた。また、研究で使用する備品の購入は順調に行うことができたため、き裂伝播を直接観察できる疲労試験機の開発を含め、10月以降の研究については、ほぼ計画通りに進めることが可能となった。 なお、研究成果の公表に関しては、発表を予定していた学会の講演会が国内外とも中止あるいは次年度へ延期となるか、リモートでの開催となったため、旅費の支出はなかったが、最初に計上していた旅費を前述の技術補佐員の雇用経費に充当することで、より精度の高い試験片の作製及び疲労き裂伝播の計測を行うことができ、最終的には、本年度予定していた計画内容をほぼ実行することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度はほぼ当初の計画通りの研究を実施できたので、次年度は申請書に記載の当初計画にしたがって、微小CT試験片の疲労き裂先端領域の透過電子顕微鏡観察行うとともに、結晶塑性有限要素シミュレーション解析を行うことで、実験とシミュレーションの両面からラスマルテンサイト組織鋼の一つのパケット内における疲労き裂伝播機構を明らかにする。また、2020年度は新型コロナの影響があったものの、旅費分を技術補佐の人件費の一部に充当することで、ほぼ計画通りの研究を行うことができた。技術補佐員の雇用が研究を大きく進展させることが判明したため、次年度以降においても、必要に応じて技術補佐員の雇用を行う。これにより、当初の計画を上回る成果が期待できる。 また、2020年度は研究の初年度ということに加え、新型コロナのため、論文の公表が1報にとどまったが、次年度以降は論文での成果発表を積極的に進める。
|