研究課題/領域番号 |
20H00324
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐々木 裕次 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (30344401)
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研究分担者 |
関口 博史 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 主幹研究員 (00401563)
柴山 修哉 自治医科大学, 医学部, 教授 (20196439)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光励起1分子計測 |
研究実績の概要 |
アロステリック現象が非常に注目されている。その代表的なタンパク質が四量体ヘモグロビン(Hb)である。Hbの4段階O2結合には強いアロステリック効果があり、付随して起こる大規模高次構造変化(アロステリック転移)がその根幹メカニズムと考えられている。だが、その過程を直接観察した者は未だ誰もいない。2013年ノーベル化学賞受賞者のKarplusによって、Hbアロステリック転移の動態特性が2011年に計算された。しかし、その実証は全く手つかずだ。私たちは6年前からX線1分子追跡法(Diffracted X-ray Tracking: DXT)を用いたHbアロステリック転移の1分子動態直接観察を部分的に成功してきた。DXTは、X線を用いた独自の時分割型1分子計測法であり、Hb分子内部動態1分子計測に適用可能な唯一無二の手法である。しかし、6年間のDXT測定結果から、Hb分子内部動態特性の複雑さは予想を遥かに超えていた。本研究では、この極めて複雑なアロステリック分子動態に対して説得力を持って決定的測定をするために、3つのレーザー励起を用いて最終測定する。「3つのレーザー」とは、紫外(①Caged proton pH-jump)、可視(②CO photolysis)、赤外(③Temperature-jump)で、Hbアロステリック動態の全貌を明確化することを目的としている。現在、中心的に実験を進めているのは、本科研費で購入した可視レーザーによる②CO photolysisの光励起DXTである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本予算で購入した長パルス可視光レーザーは順調に稼働している。心配していたレーザーの安定性はそれほど問題にはならなかったが、予想される分子動態が計測される確率があまりに低かった測定結果から、以下の改善点が必要であることが明確化してきている。(あ)Hbの基板固定により分子配向制御が高効率にされていない(い)Hb自身の活性が本当に保たれているかしっかり実測することを検討すべき(う)金ナノ結晶の標識部位が本当に希望通りの部位になされているか、との3点について、しっかり再考しなければならないと認識しその対策を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
長パスルレーザーを用いた実践的DXT測定をスタートさせ、何度かSPring-8のBL40XUで、コロナ禍ではあったが実験を複数回行うことができた。最近の結果として、レーザー照射後に15-30度のχ方向の回転運動がしっかり確認できるようになっってきた。しかし、予想される分子動態が計測される確率が意外と低かった。次回に向けて、あらゆる角度から再検討をして、この回転分度の再現性を向上させることができるように実験条件設定していきたい。ポイントは、Hbの基板固定効率だと考えており、あらゆる吸着法を再考している。あと、もう1つは、意外と金ナノ結晶のサイズを大きくした方が回転運動の観察効率が上がることに最近気がついたので、金ナノ結晶のサイズ効果もしっかり再現性を撮って進めていく予定である。
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