研究実績の概要 |
本年は、昨年度に引き続き、高速振幅計測器を実用化するために、企業とともに更なる広帯域化と操作性を向上させた電子回路の共同開発を継続した。自作したもの(Umeda et al., Applied Physics Letters 2021)の帯域の数倍の高速化が見込まれている。また、昨年度までに10 MHz程度の液中共振周波数を持つ超小型高速カンチレバーの開発を行っていたが、試料と反対側に反りかえってしまうことが問題となっていた。そこで、集積イオンビーム装置で加工するときの加工手順を見直すことで、反りを大幅に抑えることに成功した。また、昨年度までに非点の小さなレーザーダイオードを導入することで、カンチレバーの変位計測のためのレーザースポットの微小化に成功していたが、レーザーの戻り光ノイズが問題となっていた。そこで、高周波重畳法を導入し、戻り光ノイズを取り除くことに成功した。これにより、超微小高速カンチレバーの変位を高い精度で計測できるようになり、イメージング実験が大幅にやりやすくなった。 また、開発途中の次世代型高速AFMを用いて、バイオ応用研究を進めた。たとえば、ヒストンシャペロンであるNAP1とヒストンH2A-H2Bの複合体の構造を可視化することに成功した(Journal of Molecular Biology誌)。また、抗酸菌の天然変性ヒストン様タンパク質mycobacterial DNA-binding protein 1が、他の核酸結合タンパク質では報告のない、天然変性領域を介した新規のDNA凝集メカニズムを介して抗酸菌の休眠を誘導することを明らかにした(Nucleic Acids Research誌)。脳の神経細胞に豊富に存在し、記憶形成や忘却を担うタンパク質CaMKIIの動作中の姿をナノスケールで可視化することに成功した(Science Advances誌)。これらにより開発した顕微鏡装置の性能を示すとともに、生物学的に意義深い新知見を得ることができた。
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