研究課題/領域番号 |
20H00328
|
研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
高村 由起子 (山田由起子) 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (90344720)
|
研究分担者 |
深谷 有喜 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (40370465)
尾崎 泰助 東京大学, 物性研究所, 教授 (70356723)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 二次元材料 / フラットバンド / 走査プローブ顕微鏡 / 全反射高速陽電子回折 / 第一原理電子状態計算 / 角度分解光電子分光 |
研究実績の概要 |
令和2年度は,ゲルマニウム(Ge)単結晶(111)ウェハ上に成長した二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)薄膜上に自発的に形成する二次元Ge層に関する走査トンネル顕微鏡(STM)観察,高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所(KEK IMSS)放射光施設におけるX線内殻光電子分光測定,分子科学研究所極端紫外光研究施設における角度分解光電子分光による電子状態測定,KEK IMSS低速陽電子実験施設における全反射高速陽電子回折(TRHEPD)などの実験結果と,密度汎関数理論に基づく第一原理電子状態計算手法を用いた安定構造と電子状態の系統的な計算結果の詳細な比較を行い,(1)薄膜表面に拡散したGe原子が二重三角格子構造を形成していること,(2)その構造が電子状態にフラットバンドを有し,その物理的起源は二重三角格子のハミルトニアンに埋め込まれたカゴメ格子のハミルトニアンにあること,(3)基板であるZr終端ZrB2とGe格子の間の電荷授受の構造と電子状態への影響などを明らかにした成果をまとめた.以上は,常温相に関する成果であり,続けて低温相の構造解明に取り組み,TRHEPDによる測定と解析の結果,Ge二重三角格子を構成する,基板から遠いアドアトムの高さや位置にはほとんど変化がなく,アドアトムの下にある3つのGe原子が1ユニットとなり,特定の面内回転角で安定化していることを実験的に確定した.また,インジウムアンチモン(InSb)単結晶(111)A表面で観察される再構成構造について,第一原理計算より最安定構造と電子状態を明らかにした.ホモエピタキシャル成長膜表面について報告のあったSTM像と計算結果の比較から,これまでに提案されていた構造モデルと矛盾せず,最表面にInカゴメ格子が存在することが示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,ZrB2薄膜上に自発的に形成する二次元Ge層の常温相について理解が進み,投稿論文がPhysical Review B誌にRapid Communicationとして掲載され,多数ダウンロードされた結果,#PRBTopDownload論文となった.また,この常温相の構造をベースとして,TRHEPD測定結果から得られた情報をもとに低温相の構造モデルを構築することに成功し,そのモデルを使用して解析を進めた結果,微細構造を特定するに至った.また,既に構造モデルが提案されていたIn極性InSb(111)表面再構成構造の構造安定性を第一原理計算で検討し,Inカゴメ格子を含む構造が最安定構造であることを確認した. 以上から,本研究は目指している方向に着実に進展したと考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,二重三角格子構造をもつZrB2薄膜上二次元Ge層の低温相とその相転移機構に関する研究を加速する.まずは,温度を変化させながらTRHEPD測定を行い,その結果の解析を進める.並行して,第一原理計算により安定構造と電子状態を求め,TRHEPDや走査トンネル顕微鏡/分光の結果と合わせて比較・検討を行う.また,角度分解光電子分光装置を用いて測定した電子状態と第一原理計算により得られたバンド構造を比較し,構造変化と電子状態,特にフラットバンドとの関係を明らかにする.InSb(111)A上Inカゴメ格子についてはその電子状態,特にカゴメ格子のフラットバンドへの基板の影響を計算と実験から明らかにしていく.さらに,並行して,カゴメ格子や,そこにアドアトムを加えた二重三角格子などの他にフラットバンドを発現しうる二次元格子の理論的探索を進め,それら新奇二次元フラットバンドマテリアルの実験的合成法を検討する.
|