研究実績の概要 |
研究代表者らは、フェリ磁性体であるGdFeCo合金中の磁壁移動速度が特定の温度で急激に増大することを見いだした。この現象を理論的に考察することで、この温度ではGdFeCo合金中のGdの角運動量とFeCoの角運動量が打ち消しあうために、反強磁性的超高速スピンダイナミクスによって磁壁移動速度が増大することがわかった(Nature Materials 16, 1187 (2017))。注目すべきことは、この角運動量が打ち消しあう温度(角運動量補償温度)は磁気モーメントが打ち消しあって磁化がゼロとなる温度(磁化補償温度)とは異なるということである。つまり、角運動量補償温度でも有限の磁化が存在するため、フェリ磁性GdFeCo合金は磁化を持つ反強磁性体として振る舞うことが明らかとなった。 本研究の目的は、(1) フェリ磁性体の磁化を持つ反強磁性体としての振る舞いの普遍性を明らかにするとともに、(2)その特徴を活かしたデバイス応用への展開を図ることで、フェリ磁性スピントロニクスの基盤を構築することである。本年度は、これまで研究してきたフェリ磁性GdFeCo合金ではなく、3d遷移金属層(CoやFeなど)と希土類金属層(GdやTbなど)からなる人工フェリ磁性体の作製とその評価と行った。3d遷移金属層の磁化と希土類金属層の磁化が界面で反平行に結合することで人工のフェリ磁性体を構成した。人工フェリ磁性体では全体の磁化や角運動量補償温度などの物性を各層の厚さで容易に制御可能であり、モデル物質として適切であるばかりでなく、将来の応用上も魅力的な研究材料である。作製した試料の磁化の温度依存性を測定することで、作製した試料がフェリ磁性を示すこと、および磁化が相殺する磁化補償温度が各層の厚さで制御できることが確認された。
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