研究課題/領域番号 |
20H00335
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
藤原 正澄 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 講師 (30540190)
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研究分担者 |
松原 勤 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (20628698)
中台 枝里子 (鹿毛枝里子) 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 教授 (40453790)
鹿野 豊 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特任准教授 (80634691)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 温度計測 / 熱計測 / 細胞機能 / 生体機能 / ナノダイヤモンド |
研究実績の概要 |
本研究では、生物個体内の温度を細胞レベルの空間分解能で捉えるリアルタイム3次元温度計測顕微鏡を開発し、温度にもとづく生命活動の定量化を実現することを目的としている。今年度は、申請者らが開発したダイヤモンド量子ナノセンシング技術をモデル生物である線虫(C. elegans)に適用した研究の追加実験を行い、最終的に成果をScience Advances誌に発表した。また、温度センシングにおいて励起光強度依存性のアーティファクトが観測されていたが、その原因が蛍光NDの新奇な物性に由来していることを解明し、成果をPhysical Review Research誌に発表した。この新奇物性はアンサンブルNV中心が利用される微弱光領域でのみ現われる現象であり、蛍光NDの量子センシングにとって今後重要となると考えられる。また、温度計測技術の二次元光検出への展開においては、超高感度CCDカメラを用いた計測システムを構築した。カメラを用いた場合と光子検出器を用いた場合の温度測定感度を定量的に比較し、検出光子レートが決まれば、どちらの検出機を用いても同等の感度が得られる事を解明した。この検出技術に関する成果はScientific Reports誌に掲載された。さらに、蛍光NDを線虫に効率よく導入する実験にも取りかかった。蛍光ND表面の化学修飾状態を変化させた複数の蛍光NDを準備した。これらの蛍光NDは培養細胞への取り込み効率が上昇することを確認できたが、線虫への経口投与においては、線虫培地内で蛍光NDが凝集するなどの現象が見られ、現在、ラベリングの効率化には成功していない。今後、様々な可能性を検証していくことが必要であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、本研究の成果を学術論文4報に発表することができた。それぞれの論文が、Science Advances, Nanoscale Advances, Physical Review Research, Scientific Reports誌に掲載されたことから予想を上回る進展を見せたと言える。一方、コロナ禍の影響で、蛍光NDを線虫に効率よく導入するための実験など、特に生物試料を用いた実験は遅れることとなった。これらのことから、全体としてはおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は次の2点について研究・開発を実施する。 ①広視野・3次元・高速化技術・局所加熱技術の実装:今年度、蛍光ナノダイヤモンドスピン測定の広視野化を実現したが、測定速度がまだ遅いために、高速化と広視野化の両立を測るシステム修正を行う。これには、カメラからの測定データを高速にデータ処理する技術が必要であり、昨年度導入したソフトウェアシステムをベースに開発を行う。また、線虫の動きを画像追跡するために、正確なトラッキングができるようなプログラミングを行う。局所加熱に関しては、近赤外レーザー励起光学経路をシステムに導入する。局所加熱においては一点加熱だけではなく、空間的な形状パターンに沿って加熱できるようにするため、顕微光学系の改変を行う。システムの動作実証は、ガラス基板上に固定したダイヤモンドを意図的に動かして、生物試料の動きを模倣した擬似条件研究を行ったのちに、実際の線虫や細胞を対象にして行う。 ②線虫のナノダイヤモンドラベリングプロトコル:一度に多くの線虫に対して蛍光NDをラベリングできる経口摂取法を引き続き研究する。今年度の研究で、培養細胞においては蛍光NDの導入効率がNDの表面状態に大きく依存することが明らかとなった。この中で、細胞内取り込み量が最も大きい表面状態が線虫にも有効であると考えられるが、線虫培地においては蛍光NDが凝集するという問題が発生しており、培地成分などを丁寧に検証する予定である。また、本研究に専従する博士研究員も4月より雇用開始となっており、研究を推進できると期待できる。
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